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異世界ハニー

Step.24 輸送任務

 住居の裏手に案内されたあずきと銀秘命(しろがねひめのみこと)は、そこで不思議なものを見た。木箱であるのだが、ただの箱ではない。ゴトゴトと音を立てて動いているのである。
「……何よこれ」
 口を開いたのは銀秘命だった。大柄な半人半蛇で、長い白髪を掻き上げる水神は、切れ長の赤い瞳を大精霊に向けてジロリと睨みつける。
 身長がおよそ二メートル強はあるだろう大精霊は、自身を見下ろすように鋭い視線を向けてくるヒメさんに動じた様子もなく、がはは、と笑った。
「火の精霊が詰まっておる!」
 火の精霊。火の国を守り、支える、力の源たち。それが、大きな木箱二つに、みっしりと詰まっているのだという。
「実は土の国におる友人が困っていてな! 火の精霊が百匹ほど必要だと言うのだ! 渡航券を譲るので! ぜひとも土の国へ向かってほしい!」
 渡航券。
 その言葉にあずきと銀秘命が同時にお互いを見て、そして同時に木箱を見た。
「……だけど、火の精霊って、火の国の外に連れ出してもいいのかな?」
 困ったように首をかしげるあずき。火の大精霊は心配はいらないと胸を張る。
「この世に満ちるエネルギーより精霊は生まれる! 火の国は火のエネルギーが生じやすい! 火の精霊もまた、とめどなく生まれるものだ!」
「土の国の友人っていうのは……どうして困っているわけ?」
「うむ! 最近は! 立て続けに研究や錬成の依頼が舞い込み! 火の精霊に力を借りねば! 物質の崩壊と! 再構築が! 効率よく行えないとのことだ!」
 いちいち声が大きい大精霊に耳を塞ぎながら、あずきは概ね理解した。崩壊や再構築がなんなのかは分からないが、急いで仕事を片付けなければならないらしい。そこで別の国に行きたがっているあずきたちに目をつけ、荷物を運んでくれるよう頼むことにしたというところだろう。
「自分で行きなさいよ」
「大精霊は国から離れられんのだ! 大きなエネルギーの塊が土地を離れれば! その土地は衰弱してしまうのでな! がっはっは!」
 笑いごとではない。
 あずきは木箱に手を押し当て、押してみた。動かない。引いてみた。もちろん動かない。こんなに大きくて重たい木箱を二つも運ばなければならないとは、難儀なものである。しかし渡航券は欲しい。非常に悩ましい依頼である。
「こんなの……どうやって運べって言うんだろうね、ヒメさん」
「あたしに持たせようとしないでよ。あたしか弱いんだから」
 にっかりと笑う火の大精霊の前で言い合うあずきとヒメさん。そんな二名の元へ近づいていくように、ガサリ、ガサリ、と草むらが揺れる音がした。
「ヒメさんがさ、尻尾を巻きつけて引きずっていけばいいんじゃない?」
「あたしの尻尾がむきむきになったらどうすんのよ」
「ブォン」
「尻尾だけむきむきになることなんてある? 大丈夫だよ、筋肉も脂肪も全身にまんべんなくつくもんだから」
「それはそれで嫌よ! あたしはか弱くて可愛い水の神なんだから!」
「ブフン」
「ねえ、さっきから相槌うってくれてるの誰?」
 あずきの言葉に、銀秘命が自分たちの背後に目を向ける。それにつられてあずきもまた振り返る。そこにいたのは、青くゴワゴワとした毛並みを持った、大きなイノシシだった。
「え、あれっ? 逃したはずだよね? イノシシくん、なんでここに?」
「ブッフ」
「もしかして……あんた、ずっと追いかけてきてたわけ?」
「ブフフンフン」
 どうやら、そうらしい。青いイノシシは木箱を見て、フン、と鼻を鳴らした。いや、鼻で笑った。今のは完全に鼻で笑っていた。
 イノシシは座り込む。そしてあずきの顔を覗き込む。取り外された鞍と手綱を再びつけるよう、指図しているかのようだった。
「この箱……運べるの?」
「ブォンブフ」
 イノシシ語を今回だけ特別に翻訳するが、彼は「愚問でござる」と言っていた。
 なぜござる口調なのだ。