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異世界ハニー

Step.10 ハッタリ

「お前さんがた、運が悪かったね。この里は今、経済危機に陥ってるんだよ」
 里の長と名乗る男が、あずきに向かって声をかけてきた。グレーの髪に、もさもさとしたグレーのヒゲをたくわえ、緑の瞳をしていた。
 彼はフィリップと名乗ると、あずきをログハウスのような家へと招く。ヒメさんはずるりと体を潜り込ませ、器用に家へ上がり込んでいた。蛇と猫は液体でできているに違いない。
「この里は山賊に借金があるんだ」
「ああ、あれ山賊だったんですか」
「他に何に見えるんだ」
「えっ、あ、いやあ?」
 他に何に見えると尋ねられると、答えられない。たしかに山賊っぽいな、と納得せざるを得ないあずきである。
「ええと、それで、今のこの状況っていうのは一体何事で?」
「借金が……返せなかったんだ」
「……おおう」
 おおう以外に言いようがない。なんせこの里にやって来たばかりである。
「十年前、この里にシュラーゲンとトリットというならず者の兄弟がやって来てね。そいつらは、里の稼ぎを全て独占しようと暴れまわった。そこを助けてくれたのが、山賊たちなんだ」
「へえ、じゃあ、いい人たちなんだ?」
「一年につき千ヒノクニの用心棒代を請求されたがね」
「あっ、全然いい人じゃなかった」
「到底払える額じゃない。しかし、山賊たちは十年後まで待ってくれるという。そこで必死になって金を貯めていたんだが……全く払えず、今に至るんだよ」
 村の稼ぎは全て持って行かれてしまったという。作物も没収され、それでも千ヒノクニに届かなかったらしい。残りの九千ヒノクニは、里の住人を売り飛ばすことで賄う、と脅しをかけられているのだと、長は悲痛な面持ちで告げた。
「ああ……子供たちに何かを食べさせてやりたい」
 深く落ち込んだ様子の里長を見て、あずきは肩掛けカバンの中身を取り出す。
 森に入る前に採取した、よく分からない木の実である。それを三つ全て差し出すと、あずきは尋ねた。
「これ、食べられる実ですかね?」
「アプフェルの実じゃないか! もちろん食べられるよ! アプフェルの実をくれるのかい。なんて事だ、ありがとう旅の人」
「ヒメさん、念のためこの家にいて。ちょっと出かけてくる」
「は? あんた、どこ行こうってのよ」
 アプフェルと呼ばれる実を半分に割って六つにした里長が、周りの子供たちに分け与えていくのを見ながら、ヒメさんは呆然とあずきに問いかける。
 あずきはズボンのポケットを軽く叩きながら、にかっと笑った。
「山賊とちょっと話してくる」

 日が沈みかけた頃だった。山賊の親分と思しき二人が、里へとやって来たのは。
 親分二人を見て、里長は驚いた。
「あれは……シュラーゲンとトリットじゃないか!」
 暴れまわる暴漢から里を守ってやる、という約束自体が作り話。
 いわばマッチポンプだったのである。
 大柄な男二人は、ひどく興奮した様子であずきを囲んでいた。
「おい、宝の鍵があるっていうのは本当か?」
 電●ネッ●ワークの南●のような髪型で、真っ赤な毛皮の上着を着た男が言う。
 里の住人たちは、その様子を恐る恐る眺めるしかできなかった。
「デタラメじゃないだろうな? 坊主!」
 スキンヘッドの太った男が言う。ガラガラな怒鳴り声だった。
 銀秘命(しろがねひめのみこと)は首をかしげる。宝の鍵の話など、あずきの口から聞いたことはない。唐突に出てきた話題に眉をひそめているようだった。
「子分にも伝えた通りだよ、鍵はここにある」
 あずきは笑顔で、ズボンのポケットをまさぐる。そして、銀色に光る小さなそれを指でつまみ、山賊たちの目の前に掲げるのだった。
「……馬っ鹿じゃないの」
 銀秘命が小さく呟く。あずきがつまんでいるのは、こちらの世界に飛ばされる際、ずっとポケットに入れっぱなしだった、原付のキーだった。