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ザシキワラシ
 河原さんの髪に入ったメッシュは、半人になったからだという。なら、両方の横髪に黄色いメッシュが入っている半田さんも?
 僕の視線の意味に気がついた、何でも屋の所長である河原さんは、静かに頷くと半田さんを手招きして呼び寄せた。
「半田自身のことは半田が話した方がいいだろう」
「半田は面倒くさいことが嫌いなんだけど」
「まあ、そう言うな」
 半田さんはウェストポーチの中に幽霊柘榴をしまっている最中だった。
 おかしい。
 半人になった人は幽霊柘榴を必要としない筈じゃなかったのか。半田さんが半人であるなら、なぜ幽霊柘榴を食べて怪物の力を借りようとしているのだろう。
「何が聞きたい、ヒトリズモウ」
「一年(ヒトトセ)です……。半田さんは、何の半人なんですか?」
 僕の問いかけに、半田さんはこちらを見ることなく答えた。
「座敷童子」
「座敷……童子……?」
「戦闘能力のない怪異だよ。だから幽霊柘榴を食べて、戦えるやつらに力を借りてる。契約してるんだ。毎月食べ物や何かを供えるって約束で」
 半田さんが言うのに、河原さんが口を挟む。
「半田は二十歳で半人になってな。座敷童子の怪異となってから、若返ってる」
「若返る……? どういうことですか、それ?」
 驚きのあまり声が裏返った僕に、半田さんは何でもないことのように言葉を紡いだ。それがあまりにも現実離れしていたせいで、僕はシャケ弁当の漬物を取り落としてしまったくらいだ。

「座敷童子は子供であることが条件の怪異だから、成長が止まって、若返って、未成年に戻ってるんだよ」

「じ、じゃあ、今は……」
「二年に一歳若返ってるから、今の身体年齢は十五歳ってところかな。まだ若返る気配があるから、たぶん十歳くらいまでは遡ると思う」
 衝撃的だ。怪異に合わせて年齢まで変わっていくなんて。
 幽霊柘榴を食べるのが更に怖くなった。研修中で食べる権限がないことに感謝しかなかった。
 だが、これで半田さんの性別が不明だった謎は解けたと思う。どんどん若くなっていくせいで、声も肉体も、性が未分化な状態になっているのだ。

「座敷童子が司るのは、幸運」

 半田さんが口を開く。
「半人になった時、半田の人格が化け物と化さずに済んだことも、数いる怪異と契約を結べたのも、座敷童子の特性が大きく関わってる」
「どの半人になるか、選べたりするんですか?」
「選べないよ。完全にランダム。他の半人とかぶることもある」
 帰ろうか。半田さんは空になったシャケ弁当の空き箱を見て、そう言った。
 事務所から寮へ戻る途中、僕はどうしても気になったことを半田さんに尋ねることにした。基本的に、半田さんは自分から何でも話してくれる人ではないと学習してのことだ。
「半田さんは、なぜ半人になったんですか?」
 聞かなければよかったかな。少し後悔した。
 理由は人それぞれだと半田さんも言っていたじゃないか。
「ちょっとした事件があったから」
 半田さんは僕と目を合わせないまま、何でもないことのように言い放つ。
「あの世とこの世の境目で、幽霊柘榴を食べた。覚悟の上だったよ」
「あの世とこの世の境目でヨモツヘグイをしたら無事では済まない……あの世の住人になってしまうんじゃなかったんですか?」
「それは、あの世の食べ物を口にした場合だろ。半田が食べたのは幽霊柘榴。あの世とこの世の境目の、つまり、半分この世の食べ物ってこと。勿論ただでは済まなかった。半人になったわけだし」
 寮がすぐそこまで近づいてきていた。
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