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駄菓子屋は夜を行く8

「……え? 嘘?」

 礼を言いに来たのだが、城田カナの願いは叶わなかったようだ。
 駄菓子屋があったはずの場所は、草が生えて石が転がる、空き地となっていた。

 どこを見回しても、店らしき建物はない。城田カナは、影も形もなくなったあの駄菓子屋に面食らい、言葉を失っていた。

 ……。
 小さな丘から、駄菓子屋があったであろう空き地を見下ろす影がある。

「いいのかい、隠れてしまって」

 首から提げた鏡が、持ち主にそう問うた。
 半ば諦めた顔つきで苦笑する作務衣と赤いちゃんちゃんこ姿の女性は、ぼさぼさの茶色い髪をわしわしと掻きながら口を開く。

「過去を変えられるチャンスは一人につき一度だけ……昔、賭け事に狂った方が何度もやり直しして、魂をすり減らして亡くなったことがありましたよね」
「あったな。あれは自業自得だ」
「ですけど……過去をやり直す手段がいつまでも目の前に転がっていたから、起きてしまったわけじゃないですか」

 空き地に背を向けて歩き出した人影を眺めながら、眠たそうな目の化け狸は缶ビールのプルタブをかしゅ、と起こした。
 一口飲んで、そして、しみじみと呟く。

「過去改変のチャンスがいつまでも人の前にあったら、その人のためにならないんですよ」

 首から提げた鏡が言った。

「駄菓子屋の場所を移すかい?」

 店主である化け狸は頷いた。

「そうしましょう」

 日が暮れていく。
 狸と鏡が宵闇に姿を消していく。

 またどこかの町の一年前だか三年前だかに、過去を変えられる店の噂は立つだろう。
 上手くいくかどうかは、利用する者次第である。

終。

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