「っ……あ、んっ……」
ベッドの上では、男と少年が乱れていた。
その関係性を無視すれば、ここでそういうことをするのは何の問題もなかった。
何故ならここは、いわゆる休憩場所だからだ。
「んっ、そこ、良いっ……ん……!」
12月も半ばに入り、外も寒くなってきた。そんな中、その場で一夜限りの相手を探すのはどちらに取ってもキツい。
あまり使いたくなかったが、仕方なく掲示板の書き込みを頼りに僕はこの人と会った。
「……っ、ねぇ、……中に、直接出してもいい……?」
「えっ?」
男性の過激な希望に少し戸惑う。それをされるとこっちは後が大変なんだけど……。でも断って逆ギレされたりお金払ってもらえなかったら、それこそ最悪なんだよな。
「いいよっ……お兄さんの――」
ムードと見返りを優先した僕は、作り物で聞きそうな台詞を言ってねだってあげた。
彼はせっかく付けていたゴムを外して、僕の閉じかけの後ろにまた入ってきた。
「あっ! いッ……待って、あっもうちょっとッゆっくり……! く、ぁっ!」
この人、小学校の頃とかゴール手前だけ全力で走ってたろ絶対。急に乱暴にされて、痛いんだか気持ちいいんだか、よく分からなくなる。
彼はハッとすると「ごめんね、気遣いが足りなくて」と謝って、僕の言葉をちゃんと聞き入れてくれた。
「ううん、でもちょっとびっくりしちゃった」
吐息混じりに、相手の求める可愛らしい少年を演じる。何だ、強引ってわけでもないんだ。
再び動かれると、今度は感じたものの大半が快楽で、相手を喜ばせる声が自然と出た。
彼もそれに気を良くしたのか、ついに彼と交わった証が中に熱く広がる。
「ハァ……ハァ……」
……あーあ、何のための予防道具だよ全く。最後の最後で付けてなきゃ意味ないよ。
そんな風に良い大人に呆れる反面、僕は危ない橋を渡るスリルに笑みを浮かべていた。
†
「はい。今日はありがとうね」
「こちらこそありがとっ。僕、ここら辺によくいるからさ、よかったらまた遊んでほしいなぁ」
現金を手渡した彼は、会った時と同じ高そうなスーツ姿に戻っていた。オーダーメイドとかなのかな。鞄も靴も綺麗だし、他よりも偉くて出来る人なんだろうな、きっと。
別れの挨拶と共に手を振ると、彼も小さく振り返してくれた。
外で誰かに見られる前にと、僕は早々にお金を上着のポケットに仕舞った。
1〜2時間で2万円。いつもながら普通にバイトするのがバカらしくなる額だ。とはいえこれで食っていこうなんて考えちゃいない。ちゃんと定職に就きたいから学校に通ってるわけだ。
「…………あ」
周りはすっかり暗くなっているのに、通りはやけに明るい。イルミネーションの道だった。
「そっか、もうすぐクリスマスだ」
僕は白い息で呟いた。
クリスマス。世のカップルたちには嬉しい楽しい特別なイベントだろうが、僕みたいな奴に取っては「はいはいいつも通りですね」という感じだ。
クリスマスに、好きな人といたことなんかない。
でも……、今日の彼みたいに、好きでも嫌いでもない人となら、一緒にいられるかもな。
小さな期待を胸に、少年はイルミネーションの中を歩いて帰った。
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