2010/12/03 転生シリーズ(久々知SS・前)
女の子の名前は「藤宮 真由美」
従姉妹は「伊織」で固定です






どうして。
何故、この人がここにいるの。

「久々知兵助です。よろしく、藤宮さん」
「よろ…しく、久々知くん…」

彼は私を殺した人。
私の全てを、奪った人――



春に入学した高校で、私は運命というものに出会った。運命、この場合はさだめと言うのだろうか…酷く残酷な偶然だった。
私の通う高校は男女共学の普通の学校。入学したら、絶対弓道部のマネージャーになると決めていた。従姉妹が弓道をやっていたからだ。

ぽん、と肩を叩かれて振り向く。

「真由美、どう。もう部活には慣れた?」
「うん。でも伊織は凄いね、部長だもん」
「っても3年は人数少ないからね〜、誰かしら何かやらないと」

伊織はそれこそ私の手本のようなお姉さんだった。
この学校を受験したのも、伊織がいたから。弓道部のマネージャーになったのも、大好きな伊織を側で支えたいと思ったから。
一年と三年じゃぁ、一緒にいられる時間も限られているから…少しでも近くにいたかった。

「そういえば、今日はこれから部長会議があってさ。面倒だけど、出てこないといけないの」
「そうなの?じゃぁ待ってるよ」

私と伊織の家は同じマンションだ。

「ううん、遅くなるから真由美は先に帰ってて」
「でも、そしたら伊織は?」
「私は帰る方向が同じ奴捕まえて、適当に帰るから。真由美は…、あ、久々知!」
「!」

伊織は少し考えた後、まだ残って一人練習をしていた久々知くんを呼び止めた。
弓道着に身を包んだ久々知くんが、放った矢の先から視線をこちらに移す。

「…何ですか」
「あんた、帰る時真由美を送ってくれない?」
「い、伊織…!」
「大丈夫だって。久々知は確か、うちと家が同じ方向だったわよね」
「そうですけど」
「そのついででいいから、真由美のことよろしく。女の子の一人歩きは危ないから」
「わかりました」

副部長の言葉だからか、久々知くんはあっさりと了承すると、今まで使っていた道具を片付け始めた。私も慌てて手伝いをする。

「それじゃ、後頼んだわよ」
「お疲れ様です」
「お、疲れ様…!」

弓場を後にする伊織を見送って、私は久々知くんと最後の後始末をした。広い空間に久々知くんと二人っきり…気まずい。

「じゃぁ俺、着替えてくるから」
「あ、うん」
「入口で待ってて」

久々知くんは、そんな空気を微塵も感じさせず、マイペースに事を運んだ。
一人で入口で待つ頃には空はもう真っ暗で、日が長くなったとはいえ、誰かが一緒でなければ確かに帰り道は心細いかも。
だからといって、相手があの久々知くんっていうのも…、せめて違う人なら良かったのに。

「お待たせ。行こうか」
「うん…」

ちょっとだけ間を開けて歩く。
久々知くんは、見た目もかっこよくて女子にも人気。こんな人と一緒に帰れるなら、普通は嬉しいんだろうけど、私は…

「――さん」
「………」
「藤宮さん!」
「え!あ、は、はい!」

もうすぐマンションに着くと思った時、突然久々知くんに話し掛けられた。

「どうしたの?」
「ど…どうしたって、何が?」
「帰り道、全然喋らないから。俺もあんまり喋らないけど…藤宮さんはいつも部長とかとは良く話してるみたいだから」
「あ…そうだね、伊織とは良く話すよ…」
「ねぇ、藤宮さんは俺が嫌い?」
「え!」
「俺とは全然話さないから、そうなのかなって」
「ちが…そんなことは」
「別に、無理しなくていい」

そんなことないよ…とは言い切れない自分が憎い。
だけど、正直なところ私にもわからないのだ。今の私が目の前の久々知くんをどう思っているのか。どう接したら良いのか。

そのまま二人は無言のまま歩き続けた。何か言わなければならないと思って、マンションの前で顔を上げた。

「久々知くん…今日はありがとう。あの、私、決して久々知くんのことが嫌いではないよ……ただ、少しだけ…苦手みたいで…」
「ん。何となくそんな気がしてたから」
「ごめんなさい…」
「謝らなくていいよ。俺も、必要なだけのコミュニケーションをとってこなかったのが悪いから」
「でも…」

同じ部活で、仲間なのに…私は彼を傷付けてしまった。

「ただ、これだけは言っておこうかな」

久々知くんは長い睫毛を揺らしながら、ゆっくりと口を開いた。私は彼の言葉に恐る恐る耳を傾ける。

「久々知くん…?」
「例え藤宮さんが俺のことを嫌いでも、俺は藤宮さんが好きだよ」
「!」
「本当はずっとチャンスを窺ってたんだ…二人っきりで話したくて。でも、藤宮さんはどうやら俺のことが好きじゃないみたいだから、中々声がかけづらくて。だから、今日俺に藤宮さんを送る役目を任せてくれた部長には、感謝してるかな」

少しだけ恥ずかしそうに、久々知くんは言った。

「突然こんなことを言われて混乱してると思う。だけど、もし良かったら、俺のこともこれから普通に接して欲しい。好きな子に避けられるのはあんまり気分がいいものじゃないから」
「うん…」

久々知くん、ごめんなさい…。

「…それじゃ、お疲れ様」
「あっ、久々知くんありがとう!」

あくまで爽やかに話をした久々知くんは、少し笑顔を浮かべると元来た道を戻り始めた。
帰る方向が同じとはいえ、回り道をさせてしまったんだ。とても申し訳なく思った。私が今まで久々知くんにとってきた態度も含めて全部。

「だけど、何で私なんだろう…」

どうして前世では私を殺したくせに、生まれ変わったら好きになってるの?
わからない…どうしていいのかわからないよ。

私は久々知くんの姿が見えなくなるまでずっと、その場に立ち尽くしていた。




※※※※※※

前世の私は、お城に仕える女中だった。
姫様に御膳を運んだり、御召し物を変えたり、極普通に働いていた。
毎日仕事は大変だったけど、不自由ない暮らしをしていた。

それが、あの日…
私の全てが変わってしまった。

『姫様、お逃げ下さい!早く―!!』

城に侵入してきた者たちによって、城は炎に包まれた。
あっという間の出来事。
私たち女中は、自分たちが逃げることより先に、殿や姫様の命を守る為に動いた。
けれど、それは本当に短い間。私の命は、闇から飛び出してきた鋭い刃物によって体を横たえられた。
激しい痛みと脱力によって体が動かない。
かろうじて動いた首を動かして見えたのは、闇に紛れた久々知くんの顔。
覆面を炎に焼かれ、素顔をさらけ出したその瞬間の表情を…私は忘れていない。

絶対に忘れるものか。
自分を殺した相手を。

私は途切れてゆく意識の中で、誓った。





(あの時は、多分、何もかもが悪かった)

時代が、政治が、互いの立場が。
彼が私を殺したのは彼にとっては仕方のないことで、誰を責めることもできない。
私はただ、あの時代において自分の身を守ることができなかった、不幸な女だ。

だから、私を殺した相手を怨みこそすれ、記憶のない久々知くんを責めることはできない。彼は彼なりに、今の自分を精一杯生きているのだ。





「藤宮さんは、部長と仲がいいね。学校の外でもいつも一緒なの?」
「大体はね。小さい頃からずっと伊織が本当のお姉ちゃんみたいだったから…、最近はさすがに、あんまり家にもお邪魔してないけど。ほら、受験生だし」
「じゃぁ休みの日は何してるの?」
「んー…宿題やったり、借りてきた映画見たりとか?」
「どんなの見るの?」
「基本的には女の子が主人公のものが多いかなぁ。やっぱり、共感できるし」
「…そうなると、コテコテの恋愛ものか」
「映画に恋愛要素は必要でしょ。サクセスストーリーが好きだし」

後は何が好きだっけなぁ…そうそう、ホームアローンとか、子供が主役も好き。ファンタジーだって見るよ。最近の映画はCGが凄いんだよね。

「じゃぁさ、今度の休み…一緒に映画見に行かないか?」
「え?」
「あ、いや、もちろん無理にとは言わないけど…、駄目かな」

時折久々知くんと帰るようになってから一ヶ月。思ってもみなかったところで、誘われた。
これはもしかしなくても、デート?

「あ、もしかして予定入ってる?」

尋ねてくる久々知くんに、私は慌てて首を振った。

「ううん、大丈夫だよ!」
「そっか」
「うん……私も、そろそろ映画館行きたいなと思ってたし」

映画館行きたいってどういう意味だ。
せめて見たい映画があるって言えばいいのに…。

「じゃぁ、日曜日、一緒に行こうか」
「うん」
「待ち合わせとかは…、見る映画を調べてから、また連絡するから」
「わ、わかった」
「………」
「………」

な、何この沈黙は!

この後、私たちはほとんど話をすることなく別れてしまった。
久々知くんは相変わらず、きっちりマンションの前まで送ってくれる。
また明日ね、と言った時、少し表情を緩めて「日曜日、楽しみにしている」と言われた。
そ、そんな風に爽やかな笑顔を向けないでよ…!

「久々知くんも、気をつけてね!」

私はもはやそう言う事しか出来ず、赤くなる顔を隠しながらエントランスに駆け込んだ。


※※※※※※※※※

続きます。

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