2010/07/09 シンデレラパロ(竹谷SS)
名前はアスカです




昔々、あるところに八左ヱ門という可愛い少女がいました。
少女は器量も良く、動物たちから好かれる存在で、戯れている内に髪はいつもボロボロでした。
故に影ではこっそりシンデレラ(灰被り)なんて呼ばれることもあります。

ある時、少女の父が再婚し、継母と二人の義姉ができました。
継母はとても綺麗で、睫毛が印象的です。
義姉は、双子で見た目はそっくりでしたが、性格は全然違いました。

再婚後間もなく父が亡くなると、継母はここぞとばかりに豆腐を買い込むようになりました。
絹ごしを始め、木綿や杏仁豆腐…しまいには豆腐工場まで買い占め、竹谷家の財政は破綻気味です。
しかし、八左ヱ門は動物と戯れることに夢中で、そんなことは微塵も知りませんでした。

ある日、お城から王子様のお嫁さんを選ぶ為のパーティーがあると、招待状が届きました。
パーティーに出される料理の中に豆腐が入っていると知るや否、継母の目の色が変わります。

「豆腐食べに行こう」
「おまっ、あれだけ食べてまだ足りないのか!?」
「パーティーに出席するんだったら、ドレスはあれで…いやでも、あっち?うーん」
「雷蔵!」

継母と二人の義姉が必死に着飾る中、八左ヱ門だけはいつものように動物たちと遊んでいました。
笑顔で三人を送り出します。

「じゃ、気をつけて行ってこいよ」
「ハチも戸締まりしっかりな」
「大丈夫、いざとなったらこいつらが助けてくれるから」

と、ニカッと笑って見たのは、八左ヱ門に懐いている動物たちでした。

一人になった夜、動物たちと仲良くお喋りをしていると、魔法使いが現れました。

「八左ヱ門」
「わ!な、なんだお前!」
「あ、驚かなくていいよ。俺は魔法使いの勘右衛門。実は八左ヱ門に伝えることがあって、やってきたんだ」
「俺に伝えること…?」
「実は、その動物たちが住家にしている森のことなんだけど…都市開発計画が進んで、破壊されることになっちゃったんだ」
「な、何だってー!?」
「だけどそんなことをしたら、森の動物たちは行くところがなくなっちゃうだろう?だから、八左ヱ門に何とかしてもらいたくて…」
「お、俺はどうしたらいい!?」
「とりあえず、この国の王子に直談判してもらいたい。ちょうど今日は、パーティーが開かれているみたいだし」

魔法使いの言葉を聞き、八左ヱ門はすぐに頷きました。

「わかった!何とかしてみる…みんな手を貸してくれ!」

動物たちは八左ヱ門の為に、急ピッチで素敵なドレスを仕上げました。
勘右衛門の魔法で、虫カゴが馬車に早変わりし、毒虫たちは馬に、虫取り網は騎手になりました。
そして、ガラスの靴を履かせられます。

「じゃぁ後は任せたよ、気をつけて」
「あぁ」
「いってらっしゃい」

虫カゴの馬車に乗った八左ヱ門は、急いで城に向かいました。
その後ろで、勘右衛門が「いけね、12時で魔法が解けるって言い忘れちゃった…ま、いっか」などと呟いていたことも知らずに。

城に着いた八左ヱ門は、黙々と豆腐料理を食す継母を無視し、他の女たちから羨望の目で見られている義姉も気にせず、王子様の元へ直行しました。
王子様は大層退屈していたようで、八左ヱ門の登場に驚きつつも、どこかでそれを喜んでいました。

「王子にお話があります」
「ちょ、順番守ってね!?それと何その酷い髪!まるでモップだよ〜〜っ」
「タカ丸、いいわよ。話くらい聞いてあげるわ。で、あなたはだぁれ?」
「竹谷八左ヱ門といいます」
「あぁ、最近豆腐工場を買い占めて今も黙々と豆腐を食べている…」
「あれは兵助です」
「で、その豆腐ジャンキーの子供が何か?」
「森を…動物たちの住家を、壊さないでやって欲しいんです!!」
「は?」
「あそこは、あいつらにとって最後の楽園なんです…!」

八左ヱ門は、都市開発計画が進められれば、森の動物たちに住む場所がなくなってしまうのだと、力説しました。
それはもう、継母が豆腐を語るが如く。
王子様――アスカはその話を真剣に聞いていました。
そして、全部の話を聞き終わると、深く頷いたのでした。

「そこまで言うなら、計画を白紙に戻しましょうか。タカ丸、斜堂先生を説得しといてね」
「えぇ〜、それ僕がするの?結構厳しいなぁ…」
「いいから、頼んだわよ」
「アスカちゃんはどこに行くの?」
「せっかくだから、八左ヱ門に森の動物たちを紹介してもらおうと思って。勝手に森を壊そうとしたことも、謝らなくちゃね」

王子様はそう言うと、八左ヱ門が乗ってきた馬車に乗り、二人で夜の森を突っ切りました。
しかし途中で12時の鐘が鳴ると、馬車は虫カゴに戻り、騎手も馬も元の姿に戻ってしまいました。
虫カゴの中に閉じ込められた二人は、慌てて助けを求めます。

「ちょっと!何で馬車が虫カゴになる訳!?馬は!騎手は!?」
「あ、馬と騎手ならそこに…」

と指さした方には、毒虫と虫取り網が放置されていました。
王子様は悲鳴を上げて八左ヱ門に抱き着きます。

「ちょっと、あれ何とかしてよ!」
「何とかって言われても…刺激しなきゃ大丈夫だから」
「そんなこと言ったって〜〜!」

結局、二人は朝を迎えるまでずっとそうしていました。
ガラスの靴が朝日に反射する光を見つけて、森の動物たちが二人を助け出します。
一晩で急接近した二人は、吊橋効果もあって、お互いを好きになりました。
そして、あれよあれよという内に結婚してしまいました。
今では、周りが羨むくらいのおしどり夫婦です。

「まぁまさか、私が八左ヱ門と結婚するなんて、あの時は思ってもみなかったわねぇ…」

幸せに満ちた王子様の視線の先には、楽しそうに動物たちの世話をする八左ヱ門の姿がありました。
何だかんだ言いながら、うまくいっているようです。

ちなみに実家の継母は、新しいヒット商品を生み出し、財政の立て直しに成功したのでした。
めでたし、めでたし。


※※※※※※※※

また書いてしまった…


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