その7


「すげえ、何この魚、初めて見た」

五条は、目の前で小さな子供のように水槽にはりついている名前の可愛さを、しっかりと噛み締めていた。それと同時に水族館に連れてきてよかったと心から思っているし、次はもっと大きな水族館でもいいなと未来のプランを練る。

「うわあ、亀でかい、すげえ」

さっきから名前の口から出てくる感想が小学生レベルな所も全て愛おしさしかない。そっかぁ、名前、ウミガメも見たことないのかぁ。隣で同じように張り付いていた正真正銘の子供に「このさかなはね」と教えられていて、最早どちらが子供かすらわからない。はあ、可愛い。どっちがガキかわかんないじゃん可愛い。そんな風に名前可愛いで埋め尽くされている五条の脳内に、「ちょ、待てよ」と某大御所アイドルの如く待ったがかかる。よく考えてみろ、今日名前の顔をどれぐらい見た?あいつ魚ばっかりでこっち全然見てなくね?え、そうじゃん。魚ばっかりに夢中じゃん。じゃんじゃんじゃん!!!
一周を通り越して二周も三周もまわってメラメラと嫉妬心が沸いてきた、畜生。
手を繋ごうとしたって名前が水槽へ吸い寄せられてしまうからするりと抜け出されたし、いい思いしたのってバーコーナーでソフトクリームを「一口食べる?」って、あーんしてくれたぐらいじゃね?間接キス止まりじゃね?????

「名前、夜のイルカショーも見るんでしょ?そろそろ行かないと間に合わないよ」

ちょっぴり、おこである。





結論から言うと、五条の嫉妬心はしおしおと萎んで名前可愛い好き、が勝った。

「見て、腕食われた」

土産コーナーの一角、鮫の口に手が入れられるようになっているぬいぐるみに右腕を突っ込んだ名前の姿に五条はダウンした。可愛さどストレート。頭を抱えて思わずその場にしゃがみ込んだぐらいである。「大丈夫?頭痛いの?」鮫のぬいぐるみをくっつけたまま、名前も五条に合わせてしゃがみこむ。追い討ちをかけられるように可愛さ右フックをぶち込まれた五条は「頭痛い訳じゃないけど大丈夫ではない」と答えるので精一杯だった。

「俺、どうしたらいい?」

少しだけ、ほんの少しだけ、名前の眉が下がったのがサングラス越しに見えた。まじで可愛いプラスちょっと不安そうなところも可愛いアッパーをモロにくらった。ああ、くそ、めちゃくちゃにしてやりたい。しかし、ここは公共の場。現に大の男2人が土産コーナーの一角でしゃがみこんでいるこの画は好奇の目をひいている。こんな事なら貸切にするんだった!!次は絶対貸切にする、絶対する。ていうかホテルに水族館呼べばいいんじゃね?そしたら魚見ながらヤレるじゃん。五条は一人でそう誓った。それから五条はスっと立ち上がり、言った。

「超元気なんだけど色々と大丈夫じゃないしもうやばいから早くホテル行ってもいい?」

五条の勢いに名前は「え、…いいけど」と普通に押し負けた。夕飯の寿司屋?そんなものキャンセル一択だろう。





行きの道中で「水族館にいる魚って食えるの?」「え?食べたいの?」とか話しててくれ。



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