動する。意識がよみがえると同時に記録も自動的に再生された。オートボットによる妨害、スペースブリッジを駆ける赤と青の機体の後を追い、そうして此方の攻撃が躱されたのを見た直後記録映像は乱れ、途切れる。
それでもショックウェーブにはオートボットの攻撃がオプティックへ直撃した結果、システムもダウンしたという自身の状況を正しく認識した。視覚センサーは暗闇を映し続け、しかしそれ以外の重度の損傷はない。スタースクリームに修理させるよりは己でやった方が無駄がないだろう、判断して身を起こそうとしたショックウェーブはけれど。

「あ、まって、いま動いちゃ、だめ」

聴覚センサーへ響いたどこか拙い声音に静止された。誰だ。敵か。味方にこんな声は記録がない。瞬時に思考を巡らせ、視覚の代わりに他のセンサーの感度を上げた結果把握した気配へ向け左腕を、レーザーカノンを突きつけるも「ううん、あとちょっとだから、ね」やんわり包んで下げられた。
砲身へ触れた手の、あまりにやわらかな動作に一瞬混乱する。害意と警戒に対してそれは真逆の親愛を孕んでいたからだ。対処を弾き出そうと回転を速めるブレインを余所に、自身の顔面、大多数のサイバトロン人であれば“顔”のある場所であり、ショックウェーブの場合は巨大な単眼のみが鎮座するそこを弄られているのだと気付く。
何を、と、まさか、が瞬時に浮かび、結果冷静な回路を持つ紫の機体は後者の可能性の高さに一先ず様子を見る選択肢をとると、起き上がるのを止めて大人しくスラブ―――ではない、恐らく床だ―――へ身を横たえ続けた。
オプティックへ直接響いていた機械音がやんだ後、音もなく光が点ると同時に良好になる視覚へ映ったのは見た事のないウーマンタイプ。見える範囲にインシグニアはない。瞬時にメモリを検索するが敵味方両方のリストへ該当するデータもない。

「ん、かんぺき。すてき、キレイね、夕日みたい」

見知らぬサイバトロン人は、ショックウェーブの赤々と輝く単眼を見つめたままゆるく微笑んだ。満足感の奥へ憧憬の滲む不可思議な色の淡いブルーのオプティックは、けれど次の瞬間には凪いだ水面の静けさを湛え。そうして単眼を覗き込んでいたおもては容易くそらされ立ち上がると、道具を片付けはじめる。その姿にショックウェーブもまた起き上がりながら「……誰だ、貴様は」低く問いかけた。無防備な後ろ姿だ。武装もしていない。華奢な機体にはどこかアンバランスな大きな翼があるが、それを使い逃げようとする素振りすらない。オートボットではなくともディセプティコンの所業くらいは知っている筈だ。ディセプティコンではない時点でそれはメガトロンのやり方に、暴力と戦争に賛同していないという事であり、それは凡そ間違いではない。

「わたし?わたしは、ナマエだよ」

しかし、ガチャガチャと器具をまとめながらなんて事のない、当たり前のように返す声にもおおよそ緊張感は存在しない。武装したままの、先刻は反射でレーザーカノンを突きつけたが確認しても弾数は揃っている重厚な機体を前にするにはやはり無防備過ぎる。ショックウェーブよりも一回り以上小柄な機体のどこにも武器は隠されておらず、そもそもゆるやかな曲線を描く細身の外装は薄っぺらだと目視は済んでいた。戦闘用にアップグレードされていない装甲の、ナマエと名乗ったウーマンタイプは、それどころか振り返って「あなたは?」そう問い返してくる始末だ。
無垢、無邪気、好奇心。どれだけ見定めようと、そのおもてにあるのは負の感情とは程遠いものばかりであり、ショックウェーブはこんな眼差しを向けられた最後の記録を探ろうとして、やめた。

「……ショックウェーブだ」
「ショック、ウェーブ……ショックウェーブ、ん、うん、大丈夫。よろしくね、ショックウェーブ」

薄青いオプティックがカシャカシャと瞬き、その奥できゅるきゅると音をさせ独り言のように繰り返してから、挨拶へと昇華させる。先程から思っていたがどうにも要領を得ない雰囲気に、知らずショックウェーブはナマエと名乗った同族を観察する。ディセプティコンである自分を何故修理したのか。攻撃され機能停止させられる可能性を考えていないとは思い難い。それにこの荒廃した母星に何故居るのか。

「よろしく、しない?」
「お前が何者であれ、ディセプティコンでないのであれば生かしておく理由はない」

そう告げても「そっか」ぽつりと呟くだけでまた背を向け片付けを再開する。撃つのは簡単だった。しかし負傷した己を直し、武器を持たないその様はまるで大戦前この星に溢れていたただの一般市民のようで、非武装の戦士ではないそれを背後から撃ち殺す必要性はあまりないように思えた。それにまだ情報を引き出していない。それからでも遅くはないだろう。なによりショックウェーブの最優先事項は異なった。

一先ずナマエという名の機体を放置する事にしたショックウェーブは、そこでようやく現状を把握した。オートボットによって破壊されたままの研究所には、スタースクリームはおろかビーコンの影すらなかった。後者は既に機能停止したモノだけが転がっていたが、スタースクリームは恐らく逃走、ショックウェーブを置いてメガトロンの元へ向かったのだろう事は想像に難くなかった。スペースブリッジの復元は現状不可能であり、また通信手段すらない。結論、自分ひとりだけがこの退廃した母星へ取り残された訳だ。正確には想定外の謎の機体によって、だけ、ではなくなっていたが。そんなナマエは、ショックウェーブの詰問じみた問いにぽつぽつと、しかし素直に答えた。
曰く、戦争が嫌でずっとこっそり作った地下シェルターでひとりこの星にいたらしい。久しぶりの大きな音と振動に驚いて出てきてみればショックウェーブが倒れていたので直しただけだと。
言葉の全てを鵜呑みにする程の愚かさは持ち得ていなかったが、全てを否定するには判断材料は足りないうえにナマエの様相と言はそう矛盾してもいない。けれど大戦中ずっと隠れていたのであればやはりオートボットもディセプティコンも知っている。何故わざわざショックウェーブを修理したのか、その問いにはきょとりと青を瞬かせて「だって、痛そうで、わたしは直せて。じゃあ、直さない理由、ないよ?」不思議そうに言うだけであり、その答えはロジカルとは言い難かった。薄々勘づいてはいたがこのナマエという機体はショックウェーブとはあまりに異なる、論理的とは言い難い思考回路の持ち主のようだった。あの程度であればショックウェーブにも自身の修理は可能であり、ナマエのやった事は所謂ただのお節介でしかなかったが、それによってショックウェーブの復帰がはやまったのは事実な為、恩とまではいかないが、結果最短をとれた事実への僅かばかりの感謝はあった。

「わあ、うーん、これはだめだめ、ね」

一通り質疑応答を終え、スペースブリッジの残骸を眺めながら首を捻っているナマエの存在はやはり放置しても問題はなさそうだという結論へ達したショックウェーブは、ラボ内の片付けへと取り掛かった。爆破の衝撃は酷く、まだ使えるモノそうでないモノとを分別しながら黙々と行っていれば「これ、大丈夫。これ、は、だめ。これ……んん、これ、どっち?」いつの間にか寄ってきていたナマエが差し出したガラクタに「使えなくはない」判断を下せば「ん、おっけー」二種類の置き場が三種類へと増えた。
そうしてガショガショと、覚束ない足取りだとショックウェーブが眺めていれば案の定何もない所でつまづいていた。この同族は言動といい所作といい、幼いようなとぼけているような、あまりにも理路整然としていない。確かにこのとろく間の抜けた様子であれば、争いを忌避しても当然なのかもしれない。ショックウェーブにとってナマエは今までにそう見た事も接した事もないタイプであり、少々の興味深さはあったがしかし現状瑣末な事だった。
メガトロンと連絡もとれず、スペースブリッジの復元は不可能となっても、兵器開発のスペシャリストでありマッドサイエンティストとして恐れられたショックウェーブにとっては研究さえ出来れば問題はない。ラボ自体は修復すれば十分に使える。サイバトロン星にいればいずれメガトロンと合流する可能性もあると考え、その際に新たな兵器を献上すれば良い。出来る事、やれる事、やりたい事にショックウェーブは事欠かなく、そうしてそれはひとりであっても、無害で余分な存在がいたとしてもなんら不都合はなかった。何かしら害がある前に始末しておけばいいだけの話も、勝手にショックウェーブを手伝うナマエに、その方がはやく片付けも終わると論理的な思考は弾き出し、それにただ従った。
一先ず整理し終え、次いで壊れた箇所の修復に着手していれば、ナマエもまたふんふんと理解し難い鼻歌のようなものを口ずさみながら着々と配線を繋いでいた。ショックウェーブの修理が完璧に行われていた事を思うと、手先は器用なのだろう。やはり生かしておいた方が作業効率が良い。納得してショックウェーブは右手を動かし続けた。そうしてふたりがかりで黙々と作業した結果、ショックウェーブの計算よりも幾分もはやく終わり、ナマエの手掛けた箇所を確認しても不備はなかった。ビーコンよりも役に立つかもしれないとショックウェーブは思っていた。
なので、ナマエが「わたし、戻るけど、また遊びにきて、いい?」そう言った際も好きにしろと見送った。見送ってしまってから、もしインシグニアがないだけでオートボットの陣営であれば通信手段を持ち、報告するかもしれないと可能性を思ったが、それはショックウェーブを修理した事と矛盾する為あまり高いとは言い難い。一度ナマエの隠れ家とやらを調べれば良いだろうと、残量の少ない機体のエネルギー補給に専念した。

結果から言って案内させたケイオンの外れ、入口の分かりづらい地下深くにあるその隠れ家は、その印象とは異なり酷く殺風景で何もなかった。貯蔵されたエネルゴンと補給の為のスラブくらいのものであり、誰かを招くのははじめてだと恥ずかしそうにするナマエを余所にセンサーを働かせても通信手段になりそうなものもない。
おもてなしできなくてごめんねというナマエからの謝罪はショックウェーブにとっては見当違いも甚だしかったが、酷くしゅんとしている小柄な機体に「別に構わない」ただの事実を告げる。抑揚もなければ無感情で、低い声音はいっそ冷たく重く響くようだったが、それを受けてナマエは「えへへ」とはにかんだので、やはりショックウェーブには理解し難かった。言動を好意的に受け取られる事など滅多になかった。あるとすればメガトロンがそうだったが、あれはショックウェーブの優秀さを認めているが故のものだ。出会ってまだ数日のナマエが、ディセプティコンであるショックウェーブに何故ここまで気安いのかは興味はなくとも不可思議ではあった。

そうしてショックウェーブがナマエを、無害、雑事の役に立つ、故に処分は保留、そうブレインのリストへ書き加えた頃には新たな研究をはじめていた。
その日もひとり黙々と作業へ取り掛かっていると「そこ、それ、ちょっといまいち」不意に声をかけられ、何を言っているのかと振り返った先、華奢な指先がモニタを示していた。

「ここ、これ、こっちのが、すてき」

そうして、言葉を続けながら数字の配列を書き換える。相変わらず主語のない理解に苦しむ物言いにしかし、ナマエが組み替えた新たな配列に思考を巡らせれば確かに先程までのものよりも適していると気付く。思わず、飽きもせずショックウェーブのラボへ“遊びに来ている”隣へ並んだ小柄な機体を見下ろした。そんな風には全然、全く、微塵も見えないにもかかわらず、どうやらショックウェーブ同様科学に精通している様子のナマエに「ならば此処はどうだ?」と、つい問いかけてしまう。

「……ここ、は、こう?」
「成程、悪くない。ショックな方程式だ」
「しょっく?」
「ショックだ」
「しょっくかあ……」

知らずひとりとひとりは、ふたり並んで積み木遊びのような言葉のキャッチボールを繰り返した。
信じ難い事だったが、事実としてショックウェーブはナマエが自身と同等かそれ以上のブレインを持つと判断して以降、研究を手伝わせるようになった。拙く要領を得なくとも、打てば響く回答は一種のパズルのようで慣れればそう難しい事ではない。ショックウェーブのブレインでは弾き出されない突飛な発想に感心する事も暫し、久しく忘れた有意義な他者との思考の交流だった。戦前ただ科学者として過ごしていた時にこういった心地になった記録を、ふと思い出していた。
いつしか排除は不利益であると判断していた。

「ん……?ん、これ、いきもの?」

初対面の時もそうだったが、ナマエはショックウェーブへ多くを訊ねない。ここで何をしていたのか、何があったのか、オートボットとディセプティコンの争いは今どうなっているのか、そういった全てを探られる事はなかった。今になって思えば、その聡明さである程度は訊かずとも予想がついていたからなのかもしれない。しかしそんなナマエでもショックウェーブの手伝いをしながら、今更なんの研究なのか疑問をいだいたようだった。遅いといえば遅い。何かも理解しないまま、それでもショックウェーブのやりたい事は理解していた一種の異様さ、独特な思考回路といいナマエは所謂天才という類のものなのだろう。そう考えれば偏り過ぎた才能故に、言動や身体能力が劣る例は存在する為、ナマエのそういった面も納得出来る。理詰めで物事を判断するショックウェーブとは異なり、直感や感覚で判断する様に羨ましさはなかったが、どこか眩しくはあった。

「コレの知識はないのか。そうだ、これはサイバトロン星で今や化石となった古代生命体だ」
「すごい。かたち、ふしぎ、ね」
「我々とは異なる“ビースト”であるプレダコンだ」
「プレダ、コン……プレダコ、ン……プレダコン、ん、覚えた」

モニターへ映し出された、復元後の簡易なイメージ映像を見つめる薄青いオプティックはきらきらと輝いている。未知の生命体への興味と好奇心を隠そうともしないナマエに、ショックウェーブは研究内容を説明してやった。
大戦中もショックウェーブが手掛けていた研究。化石に含まれるサイバーニュークリアアシッドから、古の生命体のクローンを生み出すプレダコン計画。

「化石?」
「ボーンベッドと呼ばれる墓場に存在している。気になるのであれば一度見てくれば良い」
「うん、んん……そう、ね」

ラボから距離のある、簡易な座標を示してやればナマエは僅か逡巡ののちに煮え切らない返事をした。好奇心が旺盛なように思えたが違ったか、そうショックウェーブは微かな違和を思ったがナマエの行動に関しては特に気にするべき事ではなかった為、直ぐにブレインからは消え去った。
そうしてショックウェーブとナマエは黙々と共同研究を続け、月日はあっという間に過ぎ去っていった。トランスフォーマー にとって数年という単位は微々たるものだ。ああでもない、これはどうだと議論が白熱しエネルゴンの補給も忘れどちらかがエネルギー不足で強制的にスリープモードへ移行した事もあったが、ナマエが倒れた際ショックウェーブははじめて触れたその装甲のやわさが思った以上で少々驚いたものだった。ショックウェーブの鋭利な指先が軽く当たっただけで引っ掻き傷がつくのだ、レーザーカノンをくらえばひとたまりもなくスパークを失っていただろう。出会った当初の記録を浮かべ、今となっては撃たなくて良かったと結果的な選択の正しさを思った。
抱えた機体は軽く、シャットダウンしたおもてはあどけない。とても理知的な風貌には見えなくとも、ショックウェーブは既にナマエのブレインの回転の速さを知っている。スラブへ寝かせケーブルを繋いでやる。ショックウェーブにとってナマエは、既にこうした世話を焼いてやる価値のある存在だった。メガトロンと合流した際にはその有用性を進言し、ディセプティコンへ勧誘しても構わないだろうと思う程には対等な、一種、これをパートナーと言うのかもしれない。知らず伸びていた指先がまろい曲線を描く頬へ触れそうになってすんでで止まる。何をしようとしたと自身へ問いかけたが答えは返ってこなかった。ただ触れればまた傷をつけてしまうだけだろう、思って先程傷付いた箇所を研磨してやった。
ショックウェーブが倒れた際には床へ転がされたままだったが、ナマエが「ごめん、ね、ショックウェーブ……わたし、もちあげるの、むりで」申し訳なさそうに言うのを聞いて、そういえば修理された際も床だったがそういう事だったかと納得しただけだった。紫の重厚な機体をナマエが引き摺る事さえ出来ないだろう事は、自身の重量とナマエの持つ力を数式で解かずとも分かりきっていたからだ。
唯一ナマエが役に立たないのも力仕事だったと、培養槽の組み立てをひとりで行った事を思い出していた。
薄暗いラボの中央で電力を一身に消費する培養槽の傍らへナマエはよく居るようになった。黄色の特殊な液体で満ちたガラスの内を、オプティックを細めて見つめる横顔はショックウェーブの記録へ増える一方だ。

「ふふ、とげとげ、ね」
「このつばさで、あなたも、そらをゆく、の?」
「でっかく、でっかく、つよく、つよく」
「なにものにも、けして、おびやかされない、ように、ね」

慈しみに満ちた横顔と声音を、どうしてだかショックウェーブは不要な記録だとデリート出来ないでいた。
ショックウェーブにとって蘇生させるプレダコンは生物兵器に過ぎない。量産型のビーコンへ何もいだかないのと同様に、なんの感情も寄せてはいなかった。そんな自身とは真逆に、ナマエは必要以上に情を寄せているように思えた。プレダコンがナマエの忌避する戦争の道具だと理解しているだろうに、ショックウェーブと共に研究する事を嫌がっていない矛盾。他者の感情の機微に興味はなかったが、ナマエは不思議と分かりやすいようで分かりづらかった。
その一端は、ある日明らかになった。

作業へ集中していたショックウェーブはナマエの姿がない事にふと気付いた。ここ暫くずっとラボに居たが隠れ家へ戻ったのだろうかと思って、けれどその際には必ず一声かけてきていたのもあり可能性として低くなる。
自身が気付かなかった可能性もまた低い。幾ら集中していたとしてもそこまで無防備ではない。放っておいても何も関係はなかったが、ショックウェーブの足はラボの外へと向いていた。
外界まで出向いて、そこでようやく両翼だけがやたら大きな細身のシルエットを赤い単眼は捉える。ナマエはぽつんと地面に座っていた。首の角度から頭上の暗い宇宙を眺めているようだった。隠そうともしない重厚な足音に気付いているだろうが、振り返る事はなく。隣へ並び「何をしている」声をかけても薄青いオプティックは遠く輝く星々を映したままだった。

「……ショックウェーブ、鉱物の、雨、みたこ、と、ある?」

映したまま、問いの答えとはかけ離れた質問で返され、僅か、無言ののちに。

「そう言った記憶は存在しない」

簡潔過ぎる返答をした。ナマエの突飛な思考回路には慣れたと思っていたが、脈絡も前後の文法も存在しない言葉には稀に反応が遅れる。そういった規則性を理解しようとするだけ無駄だと判断していたとしても、言葉の裏や意図を勘繰るのは欺瞞の民としての反射ともいえるせいだった。

「わたしも、ね、ない、の」

いっしょ、ね。立ち上がりながらショックウェーブを見上げてやわく微笑む。満足感の奥へ憧憬の滲む不可思議な色の淡いブルーのオプティック。既視感としてブレインが情報を瞬時に検出しようとする。

「でも、むかし、資料で、みて……キレイだった」

ナマエが昔どこかの惑星の資料画像を見た時に映っていて綺麗だと記憶に残っているのだというそれを、ショックウェーブもまた知識としてだけは得ていた。この広大な宇宙のどこかに、元素鉱物やネソケイ酸塩鉱物といったものが雨のように大地へ降り注ぐ星が存在するのだと。興味のない謎の回答を受けても、それ以上の感想はない。けれどショックウェーブはらしくもなくこの無意味な会話を続けた。

「実物を見たいとは思わないのか?」
「まえは、思ってたけど、ん、もう、だいじょ、ぶ」

くちびるは緩く弧を描いているというのに、何故だかショックウェーブの単眼には酷く寂しげに映った。それに現状、未だディセプティコンとオートボットがこの宇宙の各地で戦争を続けている事が妨げとなっているのだとショックウェーブのブレインは解を導き出し「戦争が終われば見に行けば良い」そう告げていた。
しかし、ナマエはオプティックをひとつ、ゆっくりと瞬かせ。

「……終わらせて、くれる、の?」

主語のないその問いへ込められたのは何か、メガトロンか、ディセプティコンか、ショックウェーブか、蘇生させ生物兵器として戦争の道具と扱われる生命体か。
その時ショックウェーブは初めて、そうしてようやく、ナマエの矛盾の答えを思った。このディセプティコンでもオートボットでもない機体は、勝敗に興味はなく、ただただこの争いの終結だけを望んでいるのだと。それはどこか、酷く“らしくない”ように思えた。ショックウェーブへの問いであっても、ナマエはディセプティコンとオートボット、そのどちらかが死に絶えても構わないのだ。正しいようで死に満ちたそれは、今まで見てきたナマエの印象とはあまりに乖離していた。ショックウェーブを修理し、プレダコンを慈しむ姿とは真逆の思想だったからだ。

「……その為の計画だ」

現状、両陣営共に各地へ散っているがメガトロンは着実に次の手を推し進めている筈であり、ショックウェーブはディセプティコンを、自身の主を疑ってはいない。
返答はナマエの求めるものとそう差異はなかっただろうと、聡明なブレインは弾き出してけれど。

「そっか」

その笑みから終ぞ、ショックウェーブが似つかわしくないと思う憂愁が消え去る事はなかった。




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