それは一目見た時からだった
あの店で珈琲を飲んだ時みたいに、急に涙が溢れるのと
今度は酷く胸が締め付けられる感覚に襲われるのと、
こちらに気が付いた彼女が一瞬驚いた顔をしたのを見て、
関わってはいけないと無意識に自分への危険信号を出しているのに、
まるでそれが習慣だったかのように、
彼女を抱きしめた
「え、と、あの?」
「うわぁぁあ!すいません!急に!思わずと言うかそういうつもりじゃなかったというか、とにかく、自分でこういうのも何ですが怪しいものではないので、その、ごめんなさい!!」
一見ただの変態でしかない自分の行動に慌てつつ何とか頭を下げて謝ると、
頭上から聞こえてくる笑い声
「ふふふ、あははっ!大丈夫ですよ!確かにビックリはしましたけど、まぁハグしただけなので!顔を上げて下さい」
見た目の大人っぽい雰囲気と違って、子供みたいに無邪気に笑う彼女に胸が高鳴る
「あ、いや、だめですよ!見知らぬ男に抱きしめられたのに笑って済ませちゃ!」
顔に熱が集まるのを感じながら、彼女に注意をする
そもそも僕自身がやらかしたんだけど………
「大丈夫ですよ。それにお兄さん良い人そうだし」
「お、男は皆狼なんですから気をつけて下さい!」
必死に注意してもニコニコしている女性に、照れと心配と、色んな感情が混ざって息苦しくなる
「良かったら一緒にお茶でもどうですか?
…なんて、なんだかナンパみたいになってますけど………」
「良いですよ」
「えっ?」
なんだかこのまま分かれたくなくて、思い切って誘ってみると、予想外にも良いと言われ固まる
「こうやって出会えたのも、何かの縁ですし。それに通りすがりにイケメンに抱きしめられる事なんてそうそう無いことなのでその記念に」
ね と綺麗な笑顔で言われて、引き下がれるわけがなかった
「じ、じゃあ!そこの角を曲がったところにある、:reってお店の珈琲がすごく美味しくておすすめなので!」
「あっ!私もそのお店お気に入りなんですよ!是非行きましょう!」
偶然なのか運命なのか、わからないけれど
きっと彼女は僕の失った記憶の中に居るのかもしれない
だけど、僕は僕として出会った彼女の事を知りたいと思った。
脳の中で何かを必死に囁く彼から逃げながら
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