私は貴方の従順なしもべ


冷たい石畳の上で静雄はくたり、と体を横たえた。
ほてった体には、この冷たさはちょうどいいくらいである。

「……ふ」
「ねえ」

呼吸を整えていると、臨也が体をずらし静雄の腹のあたりから声をかけてきた。
彼も体が熱いのか、胸元をはだけている。白い胸に息を飲んだ。

「シズちゃん。足、広げて」
「……ん」

言われるがまま、下肢の力を抜いた。
目にも明らかに反応しきった性器が、衣服を押し上げている。
臨也はためらいなくそこに手を伸ばし、

「!」

そっと、布を取り去った。
白くしなやかな指にペニスを包まれる感覚は、いまだに慣れない。自分の手では簡単に反応しないくせに、臨也の手でふれられたとたん、だらだらと先走りの液がこぼれる。
硬くなった性器に臨也は息を吹きかける。
そして。

「これも、飲ませてよ……ね?」
「や……う、あ……ッ」

優しく先端に口づけられ、次の瞬間には彼の口内に招き入れられる。
抵抗も覚悟も、隙あらばこそ。あっという間に、臨也は深く飲み込んだ。

「あ、ぁああっ」

濡れた場所にうずもれたペニスが震え、さらに質量を増す。
上品な顔立ちの男が、自分の性器を頬張っている。それは酷く淫靡な光景だった。

「ン」
「あ、ん……う、う……っ」

苦しくないのだろうか。喉の奥まで突き入れているはずだが、彼は涼しい顔をしている。
舌で撫で上げられ、強く吸いつかれると腰が揺れた。

「……ん、ンッ!」
「おいしい……」

ちゅ、と先端を吸って、臨也は顔を離す。
さすがに彼の息も上がっていて、目元がほんのりと赤く染まっている。
静雄の先走りと唾液とで濡れた唇が、てらてらと光る。

「君はほんとに、どこもかしこもおいしいね」
「は……っ、ぁ」

指でいたずらげに性器を弾かれ、臨也を睨む。
手を伸ばし、口づけをねだった。

「ん……」
「……ふ、ぅ」

少し、苦い。
けれどそれもすぐに気にならなくなり、熱く甘い舌先の感覚に夢中になる。
なだめるように臨也は静雄の頭を撫でた。

「もっと味わいたいんだけど、いいかな?」
「っ」

そう言って、彼は静雄のあらわになった下半身。前ではなくうしろのすぼまった場所をくすぐる。
快感が思い出され、力が入る。臨也の体を挟むように、ふとももを強く閉じた。

「い、いちいち、聞くの、やめろ……っ」
「ふふ、だって一応……ねえ?」
「おまえのだろうが!」

白々しく許可など求めるな。
強く言い放てば、臨也はあでやかに微笑む。

「……じゃあ、俺も君のものだよ? だから、好きにしていい」
「…………」
(そんなの)

ずるい。
好きにしていいだなんて言われたら、いやらしい妄想が思い出されるではないか。
何度も自分を慰めた、あの夜からの日々を。
静雄はこの瞬間、泣きたいくらいに恥ずかしく、幸せだった。

「どうしてほしい? 命令してよ」
「お、おまえが……」

主人だろう。好きにするのはそっちの役目だと、震える声で言い募る。
とろけそうになる体に鞭打って、快感に必死に反抗した。
当の臨也は気にとめた様子もなく、静かに告げる。

「言ったろ、魂を共有するって。主従じゃない。……半身だ」

笑みはそのままに、どこか真摯な瞳に心臓がとまりそうな心地になる。
言葉の意味を噛みしめ、静雄は臨也の声を聞いた。

「俺の眷属でもあるけど……それはあくまで血の契約によるものだから、たいした意味はないよ」
「…………」

だから、と頬を撫でられると、もう抗えるわけがなかった。
体の力が抜け、臨也に向ける目がとろけてしまう。

「……なんで、そんなに言わせたいんだよ」

おずおずと尋ねると、彼は満面の笑みで、

「君の恥ずかしがる姿が見たい」

きっぱりと、言い放った。

「…………」

なぜだろう、面と向かってこうも堂々と言われると、言い返せない。
限界というものを知らないのだろうか、この男は。自分はたいがいに恥ずかしい目にあって、恥ずかしい姿を見せている。

「……これ以上、どう恥ずかしがれってんだ」
「まだまだ」

花がほころぶように微笑まれては、言葉に詰まっても仕方がない。
ほだされている。自覚しつつも、静雄は甘い顔をするしかないのだ。
顔に熱が集まる。緊張で渇いた唇を舐め、視線を落とした。足の力を抜く。

「……つ、続き、早く」

視線は合わせず、小さく呟く。
甘い香りが鼻をくすぐったかと思うと、臨也は静雄の体を反転させてうつ伏せにした。

「仰せのままに」
「っ」

熱い舌が尻穴にふれる。
遠慮なくねじ込まれ、性器が揺れた。

「あ! ふ……っ」

息が洩れ、唾液が伝う。
頭をかかえるようにうずくまる。目を瞑ると、自然とほかの感覚が研ぎ澄まされた。
臨也の息や舌の動きを生々しく感じ取り、体が震え、熱がさらに上がる。

「……ここ、気持ちよかったんだ? ずいぶん慣らしたんだねえ」
「うぁあっ」

舌を抜いた彼が、おもむろに指を突き入れた。
第一関節がうずもれた程度だが、突然の質量に静雄の背が跳ねる。

「使ったのは指? 道具?」
「……っ」

恥ずかしい問いかけに、喉が上下する。
刺激に飢えていた日々の、自分の浅ましい姿が鮮明によみがえる。

「……ねえ」
「あ、あっ!」

じれた男が、さらに深く指を押し込んだ。
痛みはほとんどなく、苦しさと快感がまさる。
乱暴に中をえぐられて、悲鳴が洩れた。

「ゆ、ゆび……っ」

たまらず、声をあげる。

「指、で……おまえの、こと、想像……し、て」

正直に言えば許されるのかと、静雄は泣き声に近い声で哀願する。
臨也の表情は見えないが、背中越しに満足そうな溜め息を感じた。

「俺の指のつもりで、ここにいれたの?」
「ん、ンッ」

指が抜かれたと思えば増やされる。
自分のものとは違う、けれど待ち望んだ男の指に、体は悦びに啼いた。

「アッ、ひぁ、あっ」
「嬉しい……」

恍惚と呟きながら、臨也はたくみに中をえぐった。
丁寧に壁をこすったかと思えば、勢いよく指を押し広げ、こちらの呼吸を乱すのだ。

「どうされるのが好き?」
「っ」

言われた瞬間、静雄は自分の尻に手をかけ、穴を広げるように強く掴む。
潜っていた指をさらに深く飲み込み、体が引きつった。

「あ、あー……っ!」

汗に涙、口元からは唾液。性器から溢れる先走りと、体から雫をこぼして静雄は喘ぐ。
体に教え込まれた快感は、いつだって静雄を翻弄した。それでも、日々の疼きはあの夜とは比べ物にならない。
十日前。
あの日はわけがわからぬまま、体を暴かれた。濁流に流されるように抗えない快楽を受けとめ、気がつけばすべてが終わっていたのだ。
けれど、今は。

「……シズちゃんは素直でほんと、かわいいね」
「うー……」

欲しかったものを与えられ、望みを叶えられ、知らなかった感情を知る。
男の優しい声音に心が弾む。恥ずかしさに呻きながらも、口元には笑みが浮かんだ。

(――おまえにだけだ、こんなの)

視線で訴えると、人ではない彼は知ったふうな顔をして、やけに甘い口づけを降らせた。






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