Make secret


乱れた呼吸を整えようと必死になって息を吸う。すると、同じように荒い呼吸をしていた臨也が額を合わせてきた。

「俺もうまいでしょ」
「……っ?」

なんのことかと思い、脱力した体をゆっくりと起こした。
臨也は汗に滲んだ自分の胸に手を当てて――。

「マッサージ」
「…………」

そういえばそんな話だったと、ここにきてようやく思い出した。

「お、おまえ、そうやって言ってれば、俺のこと、丸め込めると思ってんだろ」

恥ずかしさと悔しさと、諸々の感情に涙を滲ませながら彼を非難する。
けれど、悪びれるというよりはしおれた様子で臨也は眉をひそめ、

「気持ちよくなかった……?」

まるで儚い花のように目を伏せて息を吐き出した。
そんな姿に抗えるはずもなく、慌てて首を振ってしまう。

「だから、そういうことじゃねえって――」
「じゃあ、一緒に気持ちよくなろ」

気落ちした様子はどこへ行ったのか。
顔を上げて頬に唇を這わせる臨也に、思わず体が震えてしまう。まるで、期待しているかのように。

「っ」

達したばかりだというのに、もう体は反応を見せている。
現金すぎるだろうと自分でも呆れてしまうが、近すぎる距離に自身を煽る存在が惜しげもなくその媚態をさらしているのだ。とても冷静ではいられない。
こちらの動揺を察しているのかいないのか、臨也は熱い吐息を零し、潤んだ目で自分を見つめてくる。

「俺、ちょっとやばかった」

下肢をすりつけられる。

「!」

すると、自分と同じように熱くなった彼のそこが感じられて、思わず息を呑む。

「シズちゃんがイくの見て、それだけで出ちゃうかと」

恍惚とした呟きに目を見張る。
震える声音はとても演技とは思えない。

「お、ま」
「恥ずかしいよ……俺、いやらしい、はしたない……」

ゆるく首を振りながら、恥じ入る姿は淑女のようだった。

「…………」

あられもない姿をさらしたのは自分で、体をいいようにもてあそばれたのも自分で。だというのに、まるで彼に対して酷くいけないことをしてしまったような気分になってしまう。
長い睫が震え、その下の艶やかな瞳が自分を映している。

「ねえ、俺のこと嫌いになる?」
「――――」

吐き出された言葉に思わず目を閉じた。

(そん、な)

そんなわけがあるか。
馬鹿馬鹿しい問いかけに、唇を噛んだ。
そんな、わけがない。
途方もない恥ずかしさと、それにまさる喜びと快感があるだけで、それ以外の感情などあるはずがなかった。
反論すら封じられて、悔しげな呻き声が自分の口からは零れ出た。

「おまえ、ずるい……」
「どうして?」

無垢な表情で首をかしげる臨也を睨む。
真っ赤に染まった顔ではどこまで迫力があるのかわかったものではないが、せめてもの不満を口にした。

「綺麗で、いやらしい、から」

だから、自分はいつだって言いなりになってしまう。いつしか彼の思うがままに行動している。
そしてそのことすらも幸せだと、そう、思ってしまうのだ。
すべては恋人が綺麗で、淫靡で、自分を惑わせるからだと。そう、言いわけしたかった。
ある意味理不尽な理屈にも、臨也は怒るでもなく呆れるでもなく、ただあでやかに笑って頷いた。

「愛されてるからね」
「っ」
「綺麗にもなるさ」

馬鹿みたいな応えにさらに顔に血がのぼる。本気で言っているのだから余計にたちが悪い。
シーツに爪を立ててやるせなさに震えていると、その手をそっと握られた。

「あのね、俺、シズちゃんと恥ずかしいことするの、好きなんだ」
「…………」

力の入った手をなだめるようにくすぐって、指を絡められる。
恋人たちがそうするように手を繋がれ、唇があとわずかでふれる距離に臨也の顔があった。その綺麗な目に吸い込まれてしまいそうな、そんな錯覚を覚えてしまう。

「恥ずかしい、けど、でも気持ちよくて、秘密が増えて――」

体の力が抜ける。震える吐息を洩らして、すべての体重をベッドに預けた。

「ああ、この人は俺のもので、俺はこの人のものなんだなあ、って」

――思えるから。

囁きとともに降ってきたキスを、ただ目を瞑って甘受した。





しばらく啄ばむような口づけをくり返し、熱さと痛さを覚えた頃にようやく唇が離れた。
離れる間際、舌先がそこをひと舐めされ、思わずくすぐったさに小さく声が洩れてしまう。それを誤魔化すように軽く咳払いをして、自分の上で上機嫌に微笑む男に視線を向けた。

「お、俺はだな、おまえがつらそうだから、肩を揉んでやろうって」
「うん、気持ちよかった」

こんなつもりではなかったと、わざとらしい言いわけをしても臨也は取り合わない。
何も言われていないのに、胸中を見透かされている気がするのは被害妄想がすぎるだろうか。

「そ、それで、それだけで」
「うん」

確かに勝手に自分が煽られて、勝手に欲情して。そうしてこの現状なのだから、不満も言いわけもおかしいとわかってはいるのだが、どうしても素直になれない。
けれど。
彼を困らせて、散々に甘やかされたいという呆れた願望のせいだと、本当は知っている。

「でも、おまえが、おまえがあんな」

悔しさを滲ませて、真っ赤な顔で臨也を睨む。
いやらしくて、綺麗で。その上、可愛い。憎たらしいくらいに自分を煽る。
そのことに関しては今も昔も、彼は一流だ。怒りが欲情に変わっただけで、自分の沸点は相変わらず低いのかもしれない。

「――いいじゃないか、恋人なんだから」

嬉しそうに微笑む恋人の指が、優しく頬を滑った。

「…………」

何を言っても許される。何をしても、何を感じても。それがたとえようもなく気持ちがいい。
この綺麗な男は自分のものだ。だったら。

(もう、いいや)

言いわけはこの辺りで終わろう。

「……そうだな」
「でしょう?」

小さく消え入りそうな声で同意を示すと、まるで褒めるように口の端にキスをされる。
なんだか物たりなさを感じて、彼の背中に腕を回す。そして、自分から唇を寄せて深く口づけた。

「……つ、続き、しよう」

僅かに離れた瞬間、思わず本心を呟いていた。

「うん」

喜色を滲ませた臨也の笑顔を見た瞬間、まるでかぶりつくようにキスをされて反射的に目を閉じた。






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