嫉妬に狂いそうだ


「それじゃ、いってきます!」
「気をつけるのよ?」
「ん、わかった」


「シャルティエ、ケイカのことよろしく頼むわよ」
「はい」


出発は夜。日が落ちて夜型の魔物以外には出くわさないだろうから、この時間に出発となった。ハロルドとカーレル、ディムロスに見送られて軍基地を出た。私達の他には10人の兵士だ。平兵士といえど、それなりに実力のある人が集まっている。その中に、以前から何度も食事に誘ってきてくれる兵士もいた。



「ケイカ中尉、ご一緒できて光栄です」
「あ…、ありがとう…私こそ、一緒に戦うことができて嬉しいわ」


人当たりの良さそうな笑みを浮かべる男…名は確かセリエルといったはず。深い緑色の短髪で切れ長の二重。セリエルも、女性兵士には人気があったはずだ。


「ケイカ中尉は主に回復でしたよね。怪我はしたくないけど中尉に治療されるなら怪我してもいいかな」
「…え、」
「俺、本気なんですよ中尉のこと」
「…へ…?」


セリエルの言葉にぽかんと口を開ける。彼は、いまなんて?本気?なにに?


「俺、ケイカ中尉が好きなんです」
「ほぁっ、」
「中尉、あぶっ」

「、ケイカ!」



少し前を歩くケイカとセリエルをシャルティエはずっと見ていた。もちろん魔物を警戒しながら、同行する兵士に注意を促しながらではあるが。


前から、セリエル少尉がケイカに好意を寄せているのはわかっていた。そして彼にはあまり良くない噂があることも。だがケイカはそれを知らないし、彼の気持ちにも気付いていない。だから、他の兵士との飲み会や食事の誘いは断るように言っていたのだ。ディムロスにも一度、ケイカが良からぬ男達に狙われていると聞いていたから余計に、だ。


前を歩く2人の声は聞こえないが、楽しそうに話しているのだろう。セリエルの楽しそうな声は、たまに聞こえていた。



「ほぁっ、」



「、ケイカ!」


足を滑らせ、後ろに倒れそうになっていたケイカを支えた。距離はそんなに離れていなかったから難無く抱き留められた。ふわりと香る髪の香りに頭がくらくらした。抱えたケイカは軽くて、ちゃんと食べているのか不安になる。


「大丈夫ですか?」
「うん…ありがと、シャル」
「ケイカはおっちょこちょいだから、目が離せませんね」
「む、おっちょこちょいじゃないもん」


「転びそうになった人が何言ってるんですか」
「だって、それは」


ちらりとセリエルを見たケイカに腹の奥というか、自分の中に黒い渦が巻かれたような、黒い気持ちがグルグルと巡る。


「…それは?」
「えと、シャルには関係ないから、気にしないで」


がつんと頭を殴られたような感じだ。確かに、僕には関係のないことだろう。けれど、ケイカを好きだと気付いた僕に、その言葉はきついもので。


物資保管所のもっと先に討伐ポイントがある。そこに辿り着くまで、現れた魔物をただ切り捨てた。同行する兵士が剣を抜くと同時に、シャルティエは魔物に切りかかっていた。


「シャル、そんなに連続で戦ったら体力を消耗するだけよ、他の兵士だって、」
「ケイカは黙っていてください。…隊長は僕だ、君には関係ない」
「っ、!」


言って、後悔。
目を見開くと、すぐに泣きそうな顔をしたケイカに、申し訳なくなる。ごめん、ごめん。本当はこんなこと言いたいわけじゃない。心配してくれてありがとうと言いたいんだ。

でも、


嫉妬に狂いそうだ



(僕にそんな資格はないのに)



20120228

勝手に動くシャルとセリエル。

セリエルさんは23歳の設定です。



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