「何度言えばわかるんですか!」


響いたのは少し高めの男の声。

その声にびくりと肩を揺らして、俯く。怒鳴られたのは、男の幼馴染みの女であるリティルだ。

翡翠の色をした腰まで伸びる髪、白を貴重とした女性らしい服装をしている彼女は、男を含めた数人の中には馴染んではいなかった。


「ヒューバート、そんなに怒らなくても」
「兄さんは黙っていてください

いいですか、貴女は一般人なんだ、僕達とは違う!」

「だって、私、!」
「言い訳は聞きたくない!
リティル、家に帰るんだ」


リティルは、ヒューバートと婚約関係にあった。彼女はヒューバートに好意を寄せていたが、彼の気持ちをリティルは知らない。

ただ迷惑だ邪魔だ帰れと言われ、決して泣くまいと唇を噛んでいたリティルも、ついには瞳に涙を溜めた。


「嫌よ、絶対帰らないわ!」
「貴女は、どれだけ僕を失望させるんですか」


冷たく発せられた言葉に、ついにリティルの涙は頬を伝う。それを見たヒューバートは驚き困惑し、次の言葉を飲み込んだ。

見たことがなかったのだ。

養子としてオズウェルの姓を名乗り出してから、彼女はヒューバートの婚約者だと言われ続けていた。
気の強いお転婆な少女が、段々と女に変化していく様を一番近くで見ていたヒューバートだが、出会って7年。彼女の涙など見たことはなかった。

「私は、…!」
「リティル、」

「ヒューバートと、一緒にいたくて」


ぽつりと、か細い声で呟かれたリティルの言葉に目を見開く。

思ってもみなかった言葉に、思わず頬を染めたヒューバート。リティルは、一度だってそんなこと言わなかったのだ。

"興味あるから"、"いいじゃない別に"とただ自分を困らせたいだけだと思っていたらしいヒューバートは、碌に戦闘もできないリティルを足手まといだと思っていたのだ。

それが、彼女はただ自分と一緒にいたいから、危険を顧みず旅に参加したいと言ったのだとわかり、どこかくすぐったくなるのと同時に、温めていた思いが、弾けた。


「…リティル」
「帰らない、絶対帰らないんだから」

「わかりましたよ、もういいです」


俯いていたリティルは、ば、と顔を上げた。止まらない涙をぽろぽろ零し歪む視界の中ヒューバートを見ると、慈しむような瞳でこちらを見ていた。

とくん、と胸は高鳴り目が離