幸せな脳みそ



 今日は天気が良く、気温もちょうど良く過ごしやすい。折角だから外で食べない?と言う沢田くんの提案により屋上でお昼ご飯を食べることに。屋上へと繋がるドアを開けるとふわりと心地の良い風が頬を撫でる。ぽかぽかとした日差しでコンクリートの床も少し暖かい。

「今日は貸切みたいだね」
「ラッキーなのな!」
「なんか久しぶりの屋上だな」
「先々週にも来ただろーが」
「あれ、そうだっけ?」

 呆れたような視線に誤魔化すように微笑み、お弁当を巾着袋から取り出して手を合わせ蓋を開く。今日の和え物は味がちょうど良くできたかも、と密かに喜んでいると目の前に小さな茶色い袋が突き出された。中身は白いパン生地に黄色と緑が散らばっていて半分だけ紙袋に隠れている。いわゆる惣菜パンというやつだ。でもこれは獄寺くんの昼食のはず、何故目の前に出されたのかわからず目をぱちくりと瞬かせて問う。

「え、これどうしたの?わたしお弁当あるよ?」
「お前そんな量しか食わねえから細っこいんだよ。おら、食え」
「でもそれ獄寺くんのお昼ご飯でしょ」
「他にもあるし、お前のことだからどうせ全部食えねえだろ。食えるとこまででいいから食え」
「…わかった」

 ずいっと差し出された惣菜パンをひとくち齧る。中からはトロッとしたホワイトクリームが溢れ、食べやすいサイズのじゃがいもにアクセントの黒胡椒がピリリと効いている。上にたっぷりと載ったカリカリのチーズと新鮮なパセリの香りが堪らない。

「これ、すごく美味しい…!」
「そうだろ、名前は絶対これ好きだと思った」
「さすが獄寺くん」
「今日の放課後、買ったパン屋に連れてってやるから明日の分も買っとけ」
「うん、ここのなら他のも食べてみたい」

 ニカっと笑ってそうだろうと頷く彼の口元にはパン屑がちらほら。可愛らしいなと思いながらカバンの中からハンカチを取り出し、身を少し乗り出して口元へ。もごもごとハンカチ越しに何か言っているけれど聞き取れず、手元に息が当たって少しくすぐったいだけだ。

「はい、と綺麗になったよ」
「…おめーは俺の母親か!」
「いや彼女だけど」
「真面目に答えんなよ…汚れ、拭ってくれたのはありがとな」
「いいえ、どういたしまして」

 流石に口元を拭われるのは恥ずかしかったのかふいと横を向いてしまった。それでもお礼を忘れないところが優しくて、ほっこりとした気持ちになる。

「…あの2人、無意識だよね?」
「恐らくそうだろうな〜」

 仲が良くて良いことじゃねーかと快活に笑う山本くんと少し顔を赤くしながら苦笑いをしている沢田くんの会話は、今日の放課後の予定を話し始めた私達には聞こえていなかった。後から面白そうにこちらを見る視線に気付いた獄寺くんが山本くんに突っ掛かるのは言うまでもない。

20200808


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