ゆらめく熱視線の先は



 小学校の頃から野球が上手で、他のスポーツも出来て、勉強はいまいちだけど底抜けに明るいあの笑顔で周りを照らす太陽みたいな存在だった。それは今でもずっと変わっていなくて、相変わらずクラスの中心な君はいつだってかっこいい。

「山本くん、これ明日までの課題だって」
「了解、ありがとな!」

 そんな君の後ろの席になった今回の席替え。この席は授業中ずっと君を見ていられるから好きだ。少しついた寝癖、眠そうにあくびをする姿、広くて大きな背中。見つめるたびに好きの気持ちがまたひとつ募っていく。
 気持ちを伝える勇気なんてこれっぽっちも持てない弱い自分が嫌になる時もあるけれど、彼にはもっと相応しい人が沢山いるだろうから仕方ない。同じクラスの可愛いあの子や、ひとつ歳上の美人な先輩だって山本くんを好きだという噂を聞いた。

「なあ、苗字。この問題どうやって解くかわかるか?」
「え、っとね、これはこの公式使って…」

 朝のHRが終わると先程渡した課題を片手にこちらを振り返って話しかけられた。たまに山本くんはこうやって課題を聞いてきたり、昨日の練習がキツかったみたいな何気ない会話をしたりしてくれる。自分から積極的に話しかけられない私にとって、近くの席で良かったと思える瞬間のひとつだ。

「なるほどな…お、解けた!」
「ふふ、山本くんはやれば出来るんだよ」
「いや、教え方が上手いお陰だぜ。ありがとな」

 感謝の言葉と共に暖かくて大きな手のひらが頭に乗せられ、わしゃわしゃとかき混ぜるように雑に、けれど優しく撫でられる。うわっ、と可愛くない声が漏れ恥ずかしくて顔が火照っていくのが分かった。山本くんは肩肘をつきながらこちらを見て楽しそうに笑っている。

「や、山本くん、髪ぼさぼさになっちゃうよ」
「はは、わりいわりい」

 そのまま乱れた髪を直し、前に落ちてきた髪の毛の束を掬って耳に掛けた。細められた薄茶色の瞳の眼差しが柔らかく私を射抜く。いつもの底抜けに明るい表情ではなく、真っ直ぐに私だけを見つめていて、目が逸らせない。ひとつひとつの動作がスローモーションのようにゆっくりと見えて、固まったまま動けずにいると、なあ、と少し小さい声で薄めの唇から呟きが溢れた。

「今日の放課後空いてるか?」
「えっ、あ、空いてるけど」
「良かった!じゃあ帰りにメシでも行かね?」
「わ、私でよければ…!」

 まるで二人だけの秘密とでもいうようにこっそりと小さい声で会話をする。嬉しい誘いに驚きながらもすぐに返事をすると、よっしゃ、と小さくガッツポーズをしていた。こういうたまに見せる子供っぽいところも可愛らしいなと思うと同時に、どうして急に、とか、何故私なの、などという疑問がいくつも浮かんでは消えていく。もしかして、だなんて淡い期待が脳裏を過ぎり、自意識過剰になるのはダメだと首を横に振って思考を投げ出した。

「約束だからな」

 そう言ってゆるりと笑う姿は、いつもよりずっと優しくて暖かくて柔らかい表情だった。
 暫くその顔が頭から離れずにぼうってしていると授業開始のチャイムが鳴り響き、そして我に返ってはたと気が付く。もしかして、これってデートって言うんじゃないかな。
 気が付いてしまったらもう最後、じわじわと頬が染まっていき体温はどんどん急上昇していく。少し汗ばんだ両手で抑えつけ、暴れ出した心音がやけにうるさい。どうしよう、放課後まで心臓もたないかも。
 ちらりと目の前に広がる私よりもずっと大きな背中を見遣る。シャツの襟の近く、髪の毛の先が少しだけ跳ねていることに気が付き、きゅん、とまた心臓がときめく音が聞こえた気がした。

20201019
Twitterの企画夢でした。
初書き山本かもしれない。


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