宇宙の煌めきが消えてくみたいに



 私にとって、あなたは太陽のようで、星のようで、宇宙のようで。表現しきれない程の眩さを持った人でした。

 初めて出会ったのは中学生。まだ幼かった私達は一緒に過ごす毎日がとても楽しかった。貴方が、貴方達が何か抱えていることは知っていたけれど、私はとても無力だから何も言えなかった。そんな私に貴方はどこかほっとしていたような気もします。

 関係が進展したのは高校生。貴方が好きなのは可愛いあの子だとずっと思っていた。その固定概念が強くて、私は貴方を恋愛対象として見てなかった。いや、見ようとしてなかったのです。そんな私に貴方は思いをぶつけてくれて、とても暖かな愛情をくれました。きっと私は出会った時から、貴方の煌めきを持つその瞳に、穏やかな温もりをくれるその笑顔に、貴方自身に惹かれていたのでしょう。しばらく悩んで、それでもあなたと共に居たいと私が望んだ時、貴方は今までで見た中で1番の笑顔を見せてくれました。今でもその時を鮮明に思い出せます。

 しっかりと将来を見据えて話をしたのは高校を卒業する目前。中学生で幼かった私では到底理解しえないような事が、貴方の周りでは起きていた。昔は何も出来なくて歯がゆかったけれど、今は貴方の傍で、貴方を支えられる。そう思うだけで沢山の力が溢れてくるような、そんな気がしました。

「名前、一緒にイタリアへ行って欲しい。俺に君の人生を下さい」
プロポーズみたいだ、そう考えていたら、そう思ってくれていいんだよ、と返された。こんなに幸せなことは無い、そう思った。

 そして時は流れ、貴方は立派なボスに。皆はとても頼りになる守護者になっていた。私ができることはほんのひと握りのことだけれど、貴方が必要としてくれるなら何だって出来る。そう思うのだ。

だから、
これは、悪い夢、そうだよ。あなたが、綱吉が、いない世界なんて、

「名前、すまねえ…」
「俺らが、俺がついていたのに…っ」

 山本くんと獄寺くんの、悔しさや憎しみの篭った声を聞いて、これは現実なのだと悟る。
ああ神様、なぜ、どうして、彼なのですか。

 いつまでも嘆いてはいられない。そう思いつつも活力を見出すことが出来ない日々が続いた。いつものルーティンをこなすだけの日々。ぼーっとする時間も増えてしまった。
 今日もひとり、彼の執務室のソファでぼんやりとする時間を仕事の合間に過ごしていた。その時、ふと彼の言っていた事を思い出した。

「…何かあった時には、引き出しの、上から3番目。リングで開くようになっているから…」

 綱吉の言っていた言葉を復唱しながら、デスクの引き出しの取手の下。鍵穴のようになっているところにリングをはめ込む。彼に貰ったリングだ。すると小さく鍵の開くような音がなり、引き出しが開いた。そこには1冊のアルバムと1枚のメッセージカードが。

 "親愛なる名前へ"

 その言葉から書き始められているメッセージカードはシンプルだけれど、短いけれど、綱吉らしい言葉で。少し視界が潤んでいることには触れず、アルバムを見始める。中学生の時からの思い出が断片的ではあるが詰め込まれており、当時を思い出してとても懐かしく思った。最後まで見終わると、ひとつの写真が剥がれかかっていた。新しいものなのになぜ、気になって剥がしてみると、写真の裏にもメッセージがあった。

 "愛してる。これからもずっと。"

 まるで私が見るかのように、この未来を予知していたかのように書かれたその文字に、思わず涙が零れ落ちた。そして長い夢から覚めたかのような感覚を受けた。
いったい、何をしているのだ、私は。私は、沢田綱吉の妻で、ボンゴレのボスの妻。私がいつまでもくよくよしていたら彼の面子が丸潰れではないか。今までの自分が恥ずかしい。しっかりしなければ。

 アルバムを大事に引き出しにしまい込み、メッセージカードのみ、これからのお守りとして拝借することにした。今のボンゴレの状況は極めて厳しい。まさに正念場だ。それでも、背水の陣だとしても、私は最後まで諦めない。

「綱吉、私頑張るよ。」

 だから、最後まで見守っていて欲しい。貴方が愛した女のことを。貴方が築き上げたファミリーを。さあ、まずは山本くんと獄寺くんに今までの態度の謝罪をして、作戦会議だ。私のボンゴレの頭脳と呼ばれる参謀の力を、ボンゴレの結束力を、あいつらに思い知らせてやろう。そして、全てが終わったら、また会いに行くよ。貴方の好きだった花を持って。だからそれまで待っててね、私の愛しい人。

20190119


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