恋の宇宙で溺れる可能性



 一目惚れっていうものは所詮漫画や小説などの非日常的なもので、自分に起こりうるなど到底ありえないものだ、そう思っていました。あの瞬間が訪れるまでは。

 沢田綱吉から皆に知らせたい事があるから集まって、という内容のメールが守護者に送られたため久しぶりに訪れたボンゴレ本部。全員を集めるとは面倒なことを、と思いつつクロームに声をかけて遥々やって来たのだが、正直さっさと用事を済ませて帰りたかった。先日取り寄せた老舗のチョコレート菓子を食べたかったのもあるが、何より久々の休日、ゆっくり休みたかったのだ。わらわらと集まってきた守護者は相変わらず騒がしく、普段は慣れているのに、疲れがピークなためか少々イラつきもしていた。

 やっと全員が集まり、沢田綱吉が入ってくる。それと同時に見たことがない女性も部屋に入ってきた。その女性は黒髪に黒い瞳。顔つきからしてどうやら日本人のようだ。

「今日から俺の秘書をやってもらうことになった苗字名前だよ。みんなよろしくね」
「まだまだ未熟者ですが、皆様どうぞよろしくお願いします」

 伏せがちにしていた顔をあげ、沢田綱吉の紹介に合わせて真っ直ぐ凛とした顔で辺りを見渡し、頭を下げる姿は、なんてことのない挨拶のはずなのに何故か胸が締め付けられた。と同時に急に頬に赤みが差し、心臓がバクバクと音を鳴らし始めた。

「基本は俺の専属だけど、皆のスケジュール管理とか、たまに任務に着いてもらうこともあるから全員に集まってもらったんだ。」
「なるほどな!」
「極限によろしく頼むぞ!」

 各々が挨拶を終えた苗字と沢田綱吉に寄っていく中、僕はこの奇妙な胸の高鳴りを抑えるのに必死だった。顔は表情を必死に取り繕っていたが、「骸様…?」とクロームに呼びかけられるまで放心していたのにも気付かないほどだ。これは重症である。

「そしてこいつが霧の守護者の六道骸。基本ここにはいないけど任務の度に来るから名前に付いてもらうこともあると思う」
「六道さん、ですね。よろしくお願いします」
「…よろしくお願いします」
「そしてこっちがクローム髑髏。彼女は骸と基本行動を共にしてる。もう1人の霧の守護者みたいな感じだよ」
「よろしくお願いしますクロームさん」
「こちらこそよろしくお願いします」

 挨拶をぎこちなくだが交わし、クロームと早速打ち明けているところを見つめる。秘書をやるだけあってコミニケーション能力は高いようだ。

「沢田綱吉」
「どうした?」
「…彼女は術者ですか?」
「は?」

 何言ってんだこいつ、という顔をする沢田綱吉にイラッときながらも術者、または幻術や匣兵器を利用…?リングはしていないようたが、と自分でも気付かぬうちに呟いていると、彼はお得意の超直感とやらで何かに気づいたらしい。

「ははーん、なるほどな。骸、名前に惚れた?」
「…は?」

 今度は僕が何言ってんだこいつ、という顔をする番であった。この僕が自ら恋愛感情を持つ?ありえない。自分で言うのもあれだが顔は悪くないため女性に困ったことは無いのだ。その僕が?惚れた?しかも今日会ったばかりの女性に?

「骸のことだから初恋とかじゃないの?一目惚れとは少女漫画みたいだな〜まあ頑張ってみたら?」
「何を言うんです沢田綱吉。そんなわけないでしょう。いいから彼女が幻術使いなのか、リングを使用しているのか、この動悸を起こす原因を教えて解除なさい」
「ちょ、おま、揺さぶるな!」

 く、苦しい…と呻くボンゴレを気にせず問い詰めていると不思議そうな目を向けるクロームと苗字の姿が目に入る。苗字と目が合い、なんでしょうか?と言いたげに首を傾げる姿をみた僕は、ぼく、は、

「っっっしばらく休ませていただきます!!!」
「げほっ、お、おい骸!?」
「待って、骸様!」

 ポカーンとほうけた顔をする沢田綱吉や守護者たちを傍目に、一心不乱に屋敷から飛び出し車に向かう。やはり彼女、苗字名前は術士だ、しかも厄介な。彼女とは適度に距離をとり、しばらく使っていない有給を取って心を落ちつけるしかないそうしよう。素早く決心して出てきた割にはちゃんと休暇を取ると叫んだ僕は偉いと思います。

 「骸様、顔赤い。」追いかけてきたクロームにそう指摘されるまで僕は車の中で放心して…いないです。そう今まで精神統一をしていたのです。だから笑うのはやめなさいクローム。

20190119


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