音もなく夜は明けた


 こくり、と舟を漕いだ勢いで目が覚める。いつの間にか眠っていたようだ。少し高い位置にある窓から光が差し込んでいて夜が明けたことが分かる。向かいの椅子に座る柿本くんはいつの間にか居なくなっていた。ぼうっと周りを見渡していると突然ガラスの割れるような音が聞こえ、小さな地震のように床がかたりと揺れる。一体何が起こっているというのだろう。

「おや、目が覚めましたか」
「貴方は、」
「僕のことを覚えていますか?」
「…ろくどう、むくろ、さん」
「クフフ、正解です。お久しぶりですね、苗字名前」

 近くのドアが開き、そこからようやく待ち侘びていた彼が入ってきた。目を細め笑うその姿は、前に公園で見かけた姿よりも不思議と存在感があるように感じる。相変わらず見目麗しい姿は変わっていない。赤く美しい瞳と視線が絡まり、昨夜に感じた寒気を思い出して僅かに体が震える。呼吸音がやけに大きく聞こえた。

「さあ詳しくお話したいところですが、生憎今は客人が居まして。野暮用を終わらせてからゆっくり話すとしましょうか」
「野暮用…?」
「ええ。まだ身体が怠くて辛いでしょう?そこでゆっくりと待っていてください」

 そう言うとこちらに歩み寄り、目の前でピタリと止まる。座っている状態からだと背の高い彼を見上げるには少し首が痛いな、だなんて考えているとまだうまく動かない体はされるがままに手を取られ、手の甲に口付けを落とされた。唇の感触に思わずびくりと肩が揺れる。思わぬ展開にかなり動揺してしまい、えっ、あの、と言う声がこぼれ落ちていく。頬がじわじわと紅潮していることが鏡を見なくてもはっきりと分かった。頬に手を当てて顔を隠しながら早く治れとぎゅっと目を瞑りながら念じる。そんな私を見て彼は満足そうに微笑み、すぐ近くのソファへと足を組んで優雅に座った。それと同時にコツコツと近づいてくる足音が響く。

「ようやくお出ましだ」

 瞑っていた目を開くと、動く影が少し遠くに見えた。広めのこの部屋の奥、階段が見える方。姿を現した人影には見覚えがあった。黒い学ランに風紀の腕章、トンファーを構え愉快そうに目を細める。

「やあ、随分探したよ。君が悪戯の首謀者?」

 並盛で彼を知らない人はいないであろう。風紀委員長、雲雀恭弥の姿がそこにはあった。

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