身勝手な祈り


 ガコンという音と共に並べられたピンやペットボトルが綺麗に倒れた。久しぶりに投げたボールは思ったよりも真っ直ぐと進み自分でも驚いて思わずおお、と声が溢れる。

「あ、ストライク」
「さっきからお前ズルしてんじゃねーの!?」
「してないし出来ないですよ…」

 あれから暫くの間、宣言通りに雲雀さんは痛めつけられ、暴力が目に焼き付いているうちに何処かへと連れて行かれていた。止められたら良かったのにな。恐怖で動けない自分に情けないなと自嘲した笑いが溢れた。
 そろそろ身体が動く頃だろうと手を引かれて階段を降りると何故かそこは古びたボウリング場。ここは娯楽施設か何かだったのかもしれない。そして今は城島くんという金髪の男の子を紹介され、何故か一緒にボウリングをしている。緊迫感のない状況に先程までの光景は幻だったのかと首を傾げたけれど先程まで鼻を掠めていた血の香りがまだ離れない。今は普通そうにしていても彼らはきっと怖いひと。

「どうかしましたか?」
「えっと、…その、さっき詳しい話を聞けなかったなと思って」
「ああ、そのことですか。クフフ、聞きたいですか?」
「…はい。わからないままだとモヤモヤします」
「そうですねえ、ではまずはヒントを。あの日、君に出会ったのは偶然だと思いますか?」
「え、それってどういう」

 偶然ではないのなら一体どういうことなのか。そう問い返そうとするとガタリという音が入口の方から聞こえ、それと同時に血だらけで焦げた臭いと倒れてくる人影。

「か、きもとくん…?」
「おや、当たりが出ましたね」

 傷だらけで、出血や火傷が酷い。見ているだけなのにこちらが痛いと感じてしまうほど。自然と手に力が入って、爪が少し手のひらに喰い込む。骸様、と呟き気を失った姿は同じ歳の男の子とは思えないぐらい闘い慣れているように感じて、痛々しさに胸が締め付けられた。

「千種が手ぶらで帰ってくるはずがない。目を覚ますまで待ちましょう」
「…あの、柿本くんの手当て、しても良いですか」
「構いませんが、道具はそこまで多くありませんよ?」
「大丈夫です、簡単な手当てだけさせてください。…その、見てる方が辛いので」

 雲雀さんの手当てをできなかった罪滅ぼしとでも言うように動き始める。彼の仲間ならば許可が出るだろうと思って提案して良かった。酷い怪我に顔を少し顰めながらも手を動かす。焦げたような匂いや慣れない血の香りにくらりと倒れそうになる体を必死に保つ。「自分にできることを、できる時にしなさい」と以前母に言われたことがふと頭をよぎる。気分の悪さに涙がぽろりと一粒溢れながらも手を止めることはなかった。

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