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隣の席でくるりとペンを器用に回し、課題を解く姿を頬杖をつきながら見やる。課題のプリントが数枚配られて、解き終わったら後は自習ですと言い残し数分前に先生は出て行った。解いて提出しないと居残りと大きく黒板に書かれた文字は嫌でも目に入ってくる。

「……獄寺くんの手って綺麗だよね」
「はあ?急に何言ってんだ」

ぼんやりと考えながら見ていたら口に出てしまっていたようで、小さく呟いたにも関わらず聞こえてしまっていたようだ。私の座る一番後ろの角の席、所謂特等席な場所は教室の隅だけれど周りはそこそこ騒がしい人が多い。聞こえているなんて思わなくて少し動揺した。

「いや、指輪付けててちょっと怖いけど、よく見たら色も白いし指も細くて綺麗だなって」
「怖いは余計だ!」
「嘘は言ってないもん」
「怖いじゃなくてカッコいいだろうが」
「うーん……うん?」
「それどっちだよ」

あんまりアクセサリーは身に付けないし、男性向けのものはさっぱり分からない。もしかしたら流行ってるのかな、他につけてる人同級生で見たことないけど。未だにくるくるとペンを回す指をじ っと見つめ、真似してみようかと私も右手にペンを持ってみた。親指と中指、人差し指でそっと固定してくるり。

「うわっ」
「何してんだよ下手くそ」
「初めてやったんだから仕方ないでしょ」
「俺もさっき初めてやったけど」
「くそう」

勢いが良すぎてペンは獄寺くんの椅子の真下まで飛んで行った。初心者であんなにくるくると何度も回転させられるなんて才能あるんじゃないかな。ちょっと拗ねながらもペンを拾ってもう一度挑戦。くるり、カシャン。同じ音の繰り返し。何度かやってみたけど上手くいかなくて、恨めしそうな顔をして隣を睨む。

「おわ、顔怖えぞお前」
「酷いな」
「ったく、仕方ねえな。ちょっと貸してみろ」
「うわっ、」

椅子を後ろに引いて横向きに座り、私にもそうするように無理矢理向き合わされる。膝のあたりが微かに触れ、思ったよりも近い距離に心臓がどきりと跳ねた。そんな私にちっとも気付かずに、獄寺くんは私の右手にペンを握らせて指の形がどうだなどとぶつぶつ言いながら触れる。

「お前の手、小せえな」
「……そうかな?」
「見てみろよ、俺よりも一回り以上小せえ」
「……ほんとだ」

ペンを机に置き、手を合わせてみる。ぴったりと重なり、私もよりも大きな手が私の手のひら越しに見えた。丁度関節ひとつ分くらいだろうか。中学生なんてまだまだ成長期なのに、今の時点でこんなに差があるだなんて。先程まで近くに居ることに緊張していた気持ちは何処へやら、今は目の前にある重なった手のひらに目線は奪われ、男女の差や成長期の凄さに謎に感心していた。しばらくそのまま固まっていると、恐る恐るといったようにゆっくりと指が重なり、優しく握られる。感触を楽しんでいるかのように動く手は少し擽ったい。重なった指の隙間から、見た目よりも柔らかくてすべすべとした手のひらと白くて細長い指をするりと撫でた。

「……成長期ってすごいね」
「男女の差って結構あるんだな……っていい加減離せ!」
「え、獄寺くんが先に握ってきたんじゃん。もう少し触りたい」
「お、おま、その触り方やめろ!」
「あらら、残念」

ぽかぽかと安心するように暖かい体温と肌の質感を楽しむように柔らかく触っていたのに、突然振り払われるように手を離される。もう少し触れていたかったのになと思いながら見上げると、銀色のさらさらとした髪の毛の隙間から赤く染まった耳が見えた。さっきまでは私がドキドキしてたのに今では立場が逆転だ。

「ペン回しもう教えてくれないの?」
「うるせえ課題しろ!」
「じゃあ終わったら教えてね」
「ぜってーやだ」

もう一度触れて、今度はぎゅっと手を握ったら君はどんな顔をするのだろうか。隣からの痛い視線を無視して、顔を緩ませながら課題に取り組んだ。

ワンライお題「手の大きさ比べ」20200827
#復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負


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