Twitter Log


8月も今日で最終日。まだ気怠い温度の日が続くけど、たまに涼しい風が吹き抜けて髪を静かに揺らす。夏の終わりを、前よりも随分と近くに感じてきた。

「もうすぐ秋かな」
「まだ早すぎ」
「でもあっという間かも、もう今年の半分以上終わってるんだよ?」
「後4ヶ月はある」
「ポジティブだなあ、雲雀くんは」

屋上にある梯子の上で足をぷらぷらと動かしながら話す。私のすぐ後ろで横たわり、目を閉じながらも受け答えしてくれるのだから今日は機嫌が良いみたいだ。流れる雲を横目で見ながら人気のない校舎やグラウンドを見渡す。いつもなら人が多いけれど、今日はまだ夏休み。数日後には人で溢れかえっているだろう。長期休暇の学校は人が群れていないから、雲雀くんにとっては過ごしやすい空間なのかも。

「それにしても、私今日ここに居る意味ある?」
「僕の日差し避けだよ」
「わあ、相変わらず扱いが酷いな」
「良いから静かにしてなよ」
「はあい」

理不尽に呼びつけられることに慣れてしまい、最初の方に怖がっていた頃が不意に懐かしく感じた。ほんのちょっと遅刻しただけなのにトンファー持って追いかけられるだなんて、どこのホラー映画かと思ってダッシュで逃げ回った初対面の日。よく逃げ切ったなあの頃の私、もう今は逃げきれない気がする。逃げ切ってしまったことで逆に関心を持たれてしまい、今では何もなくても呼び出される不思議な仲になってしまった。

「……ほんと、なんなんだろうこの関係」

友達とも言えないし、別に恋人でもない。風紀委員会に入っているわけでも、同じクラスでもない。謎の関係だなとぼんやりと思っていたことが口から漏れていた。

「君は、形のある関係になりたいの?」
「ひっ……、びっくりした…雲雀くん、あの、近いよ」
「そんなことないよ」

ぽつりと呟いた言葉に、一拍ほど間を置いて耳元に返事が聞こえた。少し低めに耳に響く音は、思っていたよりも近くから聞こえて、思わずびくりと肩が跳ねる。そんなことないなんて、絶対に嘘。今までで一番近い距離に、熱を感じる。小さく息を吐く音が鼓膜を揺らした。

「あの、雲雀くん、ど、どうしたのかなー…なんて」
「さあね」
「えっと、気紛れかな…?」
「それは違う」
「そっか…」

会話をしている間にも、後ろ髪をくるくると指で遊ばれたり、いつもの雲雀くんからは想像ができないくらい優しく、そっと耳に触れられる。指の先から伝わる熱と優しさにくらくらとして、後ろを振り返ることができない。

「それで、返事は?」
「えっ、え、っとその、まあ、否定はしないです」
「そう、なら僕と付き合いなよ」

聞き間違いかと思うぐらいありえない言葉が聞こえて勢いよく振り返る。しまった、と思いつつも目の前の熱を帯びた吸い込まれそうなほど綺麗な瞳と視線が絡まり、思わず見惚れる。綺麗だ、とぼうっとする意識そのままに頭を引き寄せられ、静かに唇が重なった。
急に君が欲しくなったのは、夏のせいだ、なんて。なんだか雲雀くんらしくない言い訳が形のいい口からこぼれ落ちる。なんだかムカついて、今度は私からシャツの襟を引っ掴み、唇を押し付けた。予想外だったようで、されるがままに私の方へと体重が僅かにかかる。

「ねえ、言い訳しないで、私のこと好きって言ってよ」
「……へえ、上等じゃないか」

君が嫌というまで教えてあげるよ、とても良い笑顔でそう言った雲雀くんにぞわりと背筋に寒気を感じ、これはまずいとじわじわ後退りをしてみるけれど、後ろに壁はなく、地面もない。逃げ道はないと即座に諦め、目の前に迫りくる彼に身を預けた。

ワンライお題「夏のせい」20200831
#復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負


PREV BACK NEXT
- ナノ -