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現代文の課題で出された小作文、お題は「将来の夢」。なんとも安直なお題だ。なかなか筆が進まずに授業中に書き終えることができなかったわたしと獄寺は、教室にて居残り中。今日中に出せよと、言ったあの教師には慈悲がないのだろうか。

「獄寺は将来何したいの?」
「10代目の右腕」
「ブレないな〜」
「おめーは何したいんだよ」
「…のんびり暮らせたらそれで良いかなあ」
「なんだそれ」

まだ書き始めた文は3行目、やりたい職業も何もないわたしは獄寺に聞いてみたけれど、全然参考にはならないようだ。のんびり暮らしたい、と言ったわたしの答えを聞いて笑っているけど君も大概だぞ。

「具体的な職種とか言われても思いつかないんだよね」
「具体的に書いたのに再提出させられたの意味わかんねえ」
「獄寺のは仕方ない」
「んだと」

まあまあ落ち着きたまえ、と言いながら向かい合わせの机に肘をつく獄寺の口に飴玉を放り込む。口封じだとかそんな事は、…あるけど言わない。睨んでるとか知らない知らない。

「未来とかなにやってるんだろな〜、普通に就職して、結婚して、お婆ちゃんになっても穏やかに生きたいな」
「…お前結婚とか考えてんのかよ」
「そんな驚く?女子なら考えてもおかしくないでしょ」
「笹川妹とかが言うならわかるがお前が言うとは思わなかったんだよ」
「酷いな」
「口にいきなり飴放り込むやつが言うな」
「ごもっとも」

軽い言い合いをしながらもとりあえず適当な文で埋めていく。穏やかに、だけれど飽きないような人生がいいです、そう書いているとなあ、と声が斜め上から降ってくる。

「なに?」
「…海外で生活とか、どう思う」
「海外生活?あ〜素敵だよね、わたし外国語は英語からサッパリだから考えた事ないけど」
「…ちゃんと教えてくれるやつがそばにいたら?」

なんでそんなこと聞くんだろう。獄寺が海外からの転校生だから?将来は帰国するからその時の想像?意図が分からないながらも、とりあえず頭に浮かんだ自分の答えを呟く。

「それはいいなあ、市場とかで材料買ってご飯作ったり、綺麗な景色眺めたり、素敵じゃん。穏やかな老後も過ごせそう」
「なら、…俺にお前の人生、預けてみろよ」

ゆっくりとだが書き進めていたシャープペンシルがピタッと止まる。ぼんやりと答えてはいたけど、話の内容はきちんと耳に入っていた。でもおかしい、聞き間違いとしか思えない言葉が聞こえたのだ。

「…え、…ちょっとまって、聞き間違いと思うからもう一回言って」
「だから、お前の人生俺に預けろって言ったんだよ」
「…ふ、ふふふ」
「なっ、なんで笑ってやがる」

今までそんなそぶりなんて無かった。だけど、聞き間違いではなく、いつもの不器用な獄寺のことを考えたら、もしかしたらそうなのかもしれない。そう考えたら申し訳ないとは思いつつも思わず可愛らしくて笑ってしまった。赤く染まる頬を見る限り確信はしたけれど、ちゃんとした答えが聞きたくて問いかける。

「いや、ふふ、もしかしてそれって、告白?」
「っ……んだよ、悪いか」
「ふふ、悪くないよ、獄寺らしいなって」
「…そーかよ」
「というか、獄寺の夢って10代目の右腕なんじゃないの?」
「それは変わらねーよ。…お前一人ぐらい養えるくらい活躍してやる」
「ふふ、そっか。よーし、わたしの将来の夢決まっちゃった。ありがと獄寺」
「はあ?」

話しながらもなんやかんやと書き進めていた課題はようやく最終段落。今までの文章を省みつつ、
「海外で穏やかに、そして楽しくたまに刺激のある未来の日々を獄寺と暮らしたいです。」
と書いて締めた。書き終えた作文用紙を獄寺に見せると、いつものようにばーか、と言いながら頭をわしゃわしゃと撫でられる。片手で赤く染まった顔を覆いつつも、隠し切れていない嬉しそうに笑う姿には、もう暫く気付かないふりをしてあげよう。かく言う私も頬が熱いのだから、きっとお互い様だ。

ワンライお題「未来」20200723
#復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負


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