Twitter Log


 暖かい日差しが眩しい午後、用事も特になくぷらぷらと散歩していると偶然本屋で獄寺くんと鉢合わせた。どうやら新しく出た未確認生物とやらが出てくる本を買いにきたらしい。私も御目当ての作家さんの新刊を買い、ほくほくと幸せな気分になりながら本屋を後にした。

「今から暇ならお茶でもしない?」
「…し、仕方ねえな」
「ふふ、どうせ獄寺くんすぐにでもその本読みたいんでしょ」
「なんでわかんだよ!」
「さっきから袋に目がずっといってるもん」

 ちらちらとずっと本に目を向けている姿はいつもの大人っぽい姿よりもずっと年相応で思わず笑みが溢れる。仕方ないと言いながらも付き合ってくれるのが彼の優しいところだ。

 公園で読むには少し肌寒い季節になってきたため、近くのチェーン店に入ることに決めてから歩みを進める。いつもは甘めのドリンクを頼みがちだけれど、獄寺くんが普段缶コーヒーを飲む姿を思い出して考えていたものから注文を変えた。

「ブラックコーヒーひとつでお願いします」
「…お前、ブラック飲めたか?」
「私だってもう二年生だからね、飲めるに決まってるじゃん」

 同じものを飲みたいという気持ちもあったけれど、本を読みながらコーヒーを飲むだなんてとってもオシャレじゃないかというイメージが頭に浮かんだ。本を片手に窓際の席でコーヒーを飲む。とても素敵だ、と内心ワクワクしながらブラックコーヒーを頼んだ。ほろ苦くて昔は飲めなかったけれど、今なら飲める気がするのだ。けれど、それが気のせいだったことはすぐに理解できた。

「うっ……お、美味しいなあ…!」
「思いっきり顔に苦いって書いてあるぞ」
「気のせいだよ、お、美味しいに決まってるじゃん」

 久しぶりに飲んだコーヒーはやっぱり得意じゃなかった。思ったよりも濃いコーヒーの香りがふわりと鼻を擽り、苦さに若干顔を顰めながらもストローでちびちびと飲み進めながら会計を終えた獄寺くんを待つ。シロップ入れようかなと思ったけれど、飲めると言い切った後に入れることはなんだか恥ずかしい。それにブラックが飲めるって大人の女性っぽいし、少しでも大人びていると思って貰えたら、なんて邪な考えが頭をよぎった。
 
 二人で窓際のカウンター席に横並びに座り、ビニール袋から先ほど買った本を取り出す。楽しみにしていた新しい本は、表紙を見るだけでも胸が高鳴った。店内のゆったりとした音楽が耳に優しく響き、コーヒーを一口また口に含む、やっぱり苦い。舌先が少し痺れる感じがして飲み口からゆっくりと口を離す。テーブルに置き、なかなか減りそうにないカップの中身をじっと見つめていると左から伸びてきた手が私のカップを奪い、そして別のカップが置かれた。

「わ、えっこれ獄寺くんの」
「気になって買ったけど甘すぎたんだよ、お前にやる」

 交換されたカップからはほのかに甘い香りが漂っていた。そっと蓋を開けると期間限定の甘いラテの柔らかい色が見え、驚いて目を見開く。だって獄寺くんはいつもブラックコーヒーばかり飲んでいるはず。だから私も飲めるようになりたくて、今日は挑戦しようと頼んでみたのに。

「で、でも」
「口の中甘すぎんだよ、俺が飲みたいから交換しろ」

 そう言うと頬杖をつきながらそっぽを向かれた。さらりと揺れる銀色の髪の隙間から、ほんのりと赤く染まった耳が目に入り、そしてもう一度甘いラテのカップを見る。そういえば獄寺くんは私がコーヒーを飲んでから、会計を済ませていた。もしかして、私のために買ってくれたのかな。反対側を向いたままの横顔をじっと見ていると、「…なんだよ」と照れ臭そうに呟く。ゆるりと嬉しさで自分の頬が緩んでいくのがわかった。

「へへ、ありがとう」
「…おう」

 素直じゃないなあと思ったけれど最初に飲めるだなんて見栄を張ったのは私。お互い似たもの同士だなと思いながら暖かいラテをひとくち含む。優しい甘さとほんの少しのほろ苦さが口に広がり、ぽかぽかと指先から温まっていく。「素直じゃねえやつ」とぽつり呟かれた言葉に、やっぱり私たちは似ているねとからりと笑った。

ワンライお題「素直じゃない」20201012
#復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負


PREV BACK NEXT
- ナノ -