欠伸を噛み殺しながらゆったりと歩く。意識はあるけれど眠気が強すぎる。少しふらつきながらも清涼タブレットを2、3粒口に放り込むとすっきりとした味が広がり視界も先程より明確になってきた。眠気覚ましにオフィスに戻る前にコーヒーでも買って行こう。

「おう、お疲れさん陽菜」
「柾陸さん、お疲れ様です」
「随分と眠そうだな、夜更かしでもしたのか?」
「書類が少し溜まってまして…」
「なるほどな。コーヒーでも買ったらどうだ?」
「はい、そのつもりです」
「ならご一緒するぜ」
「ありがとうございます!」

丁度エレベーターに乗ると鉢合わせた柾陸さん、お言葉に甘えて共に上階にある売店へ。女の人のマークが目印の店のカウンターでカフェラテを頼んだ。柾陸さんの分も、といつも飲んでいるブラックコーヒーを追加注文して会計。近くで待ってくれていた柾陸さんにコーヒーを渡すと、少し驚きつつもありがとよ、と嬉しそうに頭を撫でてくれた。いつも本当のお父さんみたいに優しくて暖かい、素敵なひと。おもわず頬も緩む。

「わりいわりい、遅くなって」
「おつかれさまです」
「陽菜ちゃん俺にも一口ちょーだい」
「はあい。あ、弥生ちゃんこれお裾分け!」
「ありがとう」

さっきドリンクを買うついでに買ったチョコレートの袋を開けて小包装をいくつか取り出す。あの店のチョコは袋に沢山入っていてコスパも良く、程よい甘さだからたまに無性に食べたくなってしまう。ひとりだと食べ切れないから皆にお裾分けしている。目を輝かせた縢くんの手の上にもいくつかばらまいてあげた。常守さんにもいくつか取って渡す。甘いものは好きかな、と不安だったけれど、見た感じ嬉しそうで何より。

「あれ、今日の宿直ってお嬢ちゃん?」
「あ、はい」
「昨日の今日で大変だねえ」
「ほんとですよ。常守さん、無理はしないでくださいね?平和が一番ですし、」

縢くんからカフェラテを受け取りながらそう言った途端に鳴り響くエリアストレス上昇の警報。タイミング良すぎじゃないかな。場所は足立区、ビル内での規定値超過の発生。

「言ってるそばからそれかよ」
「まあ、俺らはシフト明けっスから。頑張って」
「狡噛の穴、私が埋めます」
「いやあ何、それには及ばんさ。さあ、出動だぜ監視官殿」
「え、」

常守さんは一度私の方を振り返り、そして柾陸さんの方を見て自分を指差す。私と柾陸さんが同時に頷く。2日連続で出動だなんて、ゆっくり話す暇もないじゃない。2人を見送った後、弥生ちゃんに寄っ掛かり溜息を吐く。

「今日もゆっくり話せなかった〜弥生ちゃん今夜は志恩さんと女子会しよう女子会」
「いいけどお酒はダメよ」
「わかってるよ」

明日こそは少しずつ話せたらいいな。せめて敬語を外して話せるくらいにはなりたい。そう言うと陽菜なら大丈夫よ、と慰められ口にチョコレートが放り込まれた。

ふわふわの不透明
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