04

「あたしのどら焼きが無いー!!」

 小南の涙声と共にバンっと開いた扉。やあこんにちは、なんて部屋の中へ声をかけながら小南に続けて入ると、迅さん、栞が昨日の新人3人相手にホワイトボードを使って何か説明をしているところだった。あの蛙の絵、なんとも絶妙な顔してるな。

「まあまあ小南落ち着いて、後で一緒にスーパーにでもおやつ買いに行こう? ね?」
「名前……いや、アンタ確か昨日居たでしょ! 知ってて黙ってたわね!」
「いひゃいいひゃい」

 もう!と私と栞のほっぺたをむにむにと引っ張る小南をなんとか落ち着かせていると、とりまるとレイジさんも騒ぎを聞きつけて部屋へと入ってきた。新人さんが入る、という話は迅さんが皆へしていたと思っていたのだけれど、どうやら小南は知らなかったみたいだ。聞いてないわよ!とまた腹を立てているので、よしよしと頭を撫でてあげながら全員分のお茶用にコップがあったかと頭で数える。来客用を合わせればいけるかな、うん。新人さんたちを弟や妹だと言う迅さんの嘘にとりまるが乗っかるから、やれやれとレイジさんがため息をついている。あ、こら陽太郎、寝るなら部屋に戻ってからにしなさい。

 栞が改めて三人の紹介をすると、続いて迅さんが私たちを引き合わせた本題に入るようで、三人は訳あってA級を目指しているのだと軽く説明をした。次の正式入隊日は一月八日。それまでにレイジさん、とりまる、小南の三人にマンツーマンで指導を頼みたいそうだ。師弟関係か、いよいよとりまるにも弟子ができるのだと思うと感慨深くなってしまうな。

「そして名前には、各々の成長を見て足りない部分があれば客観的に見てアドバイスをあげて欲しい。それと、3人が防衛任務や他の用事で手が離せない時にヘルプで入って貰えると助かる」
「苗字了解、みんな頑張ろうね」

 私にも微力ながらお手伝いができそうで安心だ。少し控えめながらも、真っ直ぐとこちらを見ながら「よろしくお願いします」と言う声に思わずにんまりと笑みが溢れる。三人ともかわいいなあ、つい沢山構ってしまいそう。

「そういえば迅さんはコーチやらないの?」
「たしかに」
「おれは今回は抜けさせてもらうよ、いろいろとやることがあるからな」
「とか言って本当はあたしたちに押し付けてないでしょうね?」
「はいはい小南、一緒に買い出し行こうね」
「わ、ちょっと名前、わかったから引っ張らないで!」

 まだもやっとしている様子の小南を引っ張りながら「じゃあまたねえ」とかわいい後輩たちに空いた方の手を振って廊下を歩き出す。今日は記念にアイスも買っちゃおうかと小南に言うと、仕方ないわねとため息をひとつ吐きながら私の手をゆるりと握り返した。なんだかんだ言って、小南も後輩ができることにそわそわしているんだろう。新しい風が吹く玉狛も、きっと楽しいことでいっぱいだよ。

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