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 朝起きて真っ先に行うのは、トークアプリを開いて小南に「おはよう」とメッセージを送ること。その数分後に返事が来て、伸びをしながら布団からのそりと出る。じゅわりと言う心地の良い音に、鼻をくすぐる良い香り。今日の朝ごはんはどうやらフレンチトーストとみた。テレビがら流れる天気予報の音声に耳を傾けながら服を着替え、軽く髪だけ手櫛で直して部屋を出る。顔を洗って軽くパウダーを顔にはたき、この前買ったばかりの薄ピンクのリップを唇にひいたら出来上がり。

「おはようレイジさん」
「おはよう名前、飯できてるぞ」
「フレンチトースト?」
「ご名答。好きなだけ取り分けて食えよ」
「やった! 蜂蜜たっぷりかけていい?」

 好きにしろとばかりに差し出された蜂蜜の瓶ににんまりと笑い、今日の朝ご飯を食べる人数分皿を出す。今日は私、レイジさん、とりまる、迅さん、そして陽太郎の5人分。そして、飲み物を準備するのも私の役目だ。

「レイジさーん、コーヒーは?」
「頼む」
「はいはーい」

 棚から取り出したインスタント珈琲をスプーンで掬い、4つのマグカップにサラサラと入れていく。2つは普通ぐらいの量、2つは少なめに。丁度カチッと沸いた音を伝えるポットからお湯を注ぎくるくるとかき混ぜていると、とりまるが眠たそうにリビングスペースへ入ってきた。

「おはようとりまる、随分と眠たそうだね」
「おはようございます名前先輩、昨日試験勉強してたら寝るのが遅くなって」
「試験前はしんどいよねえ、コーヒーは今日もブラックの濃いめで良かった?」
「バッチリです、ありがとうございます」

 混ぜ終わった2つのカップをテーブルの各位置に置き、中身が半分ほどの残り2つのカップにはミルクを注ぐ。またからからとスプーンの音を立てて軽く混ぜ合わせたらカフェオレの完成だ。……私の分には蜂蜜も少し混ぜちゃおう。

「名前先輩って甘いのほんとに好きですよね」
「えへへ、とりまるも蜂蜜いる?」
「フレンチトーストにはかけたいです」
「どうぞどうぞ、たっぷり召し上がれ」

 ふわふわの狐色に焼かれたフレンチトーストに、つやつやときらめく蜂蜜が最高に食欲をそそる。朝からなんて贅沢なんだろう。あくびをしなからドアを開ける迅さんを横目に、とりまると「いただきます」と声を合わせてフォークを手に取った。陽太郎はもう少し後にならないと起きてこないだろうから、お皿に後でラップをかけてあげないと。

「お、フレンチトーストか! 美味そうだな」
「迅さんおはよ、早くしないととりまるが沢山食べちゃうよ」
「おはようございます迅さん、名前先輩のほうが沢山食べそうな勢いですけどね」
「う、だってレイジさんの料理めちゃくちゃ美味しいんだもん……」
「ふたりともおはよう。おっとそれは大変だ、俺も早く席に着かないとだな」

 顔を洗ってくるよ、と再び部屋を出ていく迅さんもまた甘いものが結構好きだ。もうひとつのカフェオレを迅さんの席に用意し、近くに蜂蜜もセットする。あ、とりまる口元に小さいパンくずが付いてる。

「とりまる、ここ」
「? 何かついてます?」
「パンくず付いてるよ、……ってそこじゃなくてこっち」
「……ありがとう、ございます」

 わずかにズレた位置を示す指を押し除けて取ってあげると、表情はほぼ変わらないが気恥ずかしそうに目を逸らした。普段はクールな印象が強いが、とりまるも可愛い後輩だ。にんまりと笑っていると時間を指摘され、少しばたつきながらもご馳走様とレイジさんに伝えて部屋に一度戻る。通学鞄を持って玄関に戻り、少し呼吸を整えてからリビング方面へと声を張り上げた。

「行ってきまーす!」

 くぐもった複数の行ってらっしゃいの声を背に、玄関のドアを開ける。ふわりと頬を撫でる風がちょっぴり冷たくて、冬の訪れを伝えてくるようだった。今日は晴れの予報だから、お昼は暖かくなるといいんだけど。午後の体育はたしかグラウンドだったはず、と今日の予定を思い出しながらいつもの一日が始まった。

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