今年もやってきた、この日が。
外でミンミンと鳴く蝉が五月蝿くて目が覚めた。
夏休みだからって寝てばかりいないで家のことを手伝えという親の声や、学校のプールに向かうのだろうか、ワーワーキャーキャーと騒ぐ子供特有の甲高い声が耳に響く。
うぜぇ、耳障りだ。
寝返りをうって、もう一度寝ようと瞼を閉じる。
段々と睡魔が襲ってきて、もう少しで眠りにつくという時にさつきが俺の部屋に入ってきた。
「青峰くん!いつまで寝てるの、早く準備してお墓参りに行くよ!」
怒鳴りつけるような大きな声に、眉間にシワが寄っていく。
「…行かねぇ」
そう返してタオルケットを頭から被ると、さつきに奪い取られた。
「ほら、行くよ!」
「めんどくせー、一人で行ってこいよ」
「ダメ!青峰くんも一緒に行くの!」
「俺は後で行くからいい」
「そう言って去年行かなかったじゃない!」
段々と大きくなるさつきの声。
だけど行きたくないものはしょうがない。
もう一度「行かねぇ」と言えばさつきは急に静かになった。
「…まだ、認めてないの?」
「……」
「もう唯ちゃんは」
「さつき、さっさと行かねぇと暑くなるぞ」
さつきの声を遮るようにして早く行くように促せば、さつきは奪い取ったタオルケットをベッドの端に置いて部屋から出ていった。
聞きたくない。
分かってる。
どれだけ悪足掻きをしても、唯はもうこの世にはいないのだ。
窓辺にぶら下がっている風鈴がチリンチリンと音を奏でる。
寝転びながら空を見上げれば、入道雲が広がっていた。
「綿菓子みたいで美味しそう…か」
目を閉じれば浮かんでくる唯の微笑んだ表情に安心した。
大丈夫だ、忘れてない。
まだ覚えてる、大丈夫だ。
何度もそう自分に言い聞かせ、窓から入ってくる太陽の光を遮るようにして腕を目元に持っていき、もう一度瞼を閉じた。
段々重くなっていく瞼に、遠のいていく意識。
逆らうことなく睡魔に身を任せれば、いつの間にか俺は意識を手放していた。
120818