決戦の時

「セフィロス……!」

光を放つその巨大な穴の先には、紛れもない、"彼"の姿があった。

閉じられた切れ長の目の上で、長い銀色の髪が揺れている。上半身には衣服も着ておらず、その強靭な肉体が目に焼き付く。彼は"本物"のセフィロスなのだと、彼の放つ異様なオーラが物語っていた。

てっきりどこか地面に落下するものと思いきや、浮遊感は途中でなくなり、ふわりと身体が浮かんで止まるような感覚に陥った。そうかと思えば、途端に身体の自由が利かなくなり、身体の隅々までが、まるで石のように強張る。

暗闇の中で宙ぶらりんのまま身動きも取れない、そんな皆の中央に位置するようにして、彼は佇んでいた。

「グッ、これが……本当のセフィロスの力だってのか!?」

咄嗟にその腕の機関銃を構えようとしたバレットだったが、腕を動かすこともままならない。ただその場に居るだけで、体力を削られてゆくような倦怠感に襲われる。

「か、身体が……言うことを聞きやがらねえ、クソッ……!」

「前足が、後ろ足が……尻尾までちぎれそうだ……」

彼を包み込むようにして張られているバリアのせいなのか、或いは彼自身の力なのか。

彼は何の攻撃も仕掛けてはいないというのに、戦闘が始まってすらいないうちから、身体のあちこちに激痛が走る。

「アカン……やっぱりケタ違いや……」

先程までの威勢の良さを一瞬にして砕いてしまうほどに、彼の力は強大なものだった。

彼を倒し、メテオの衝突を食い止め、星を救う。その決戦が始まろうとしているというのに、為す術が何もない。ただこうして、痛みに耐えながらその場にとどまっていることで精一杯だった。

「ア、アタシ……もう、ダメかも……」

痛みで意識が遠のきそうになる。そして、彼の威力を見せつけられ、心まで削られてゆくようだった。

「……こに、……ある、」

そんな仲間達の悲痛な叫びの中、クラウドはセフィロスに向かって必死に腕を伸ばしている。何かを見付けたのか、彼に何が見えているのか、かろうじて聞き取れる彼の声に、皆が耳を澄ませていた。

「そこに……あるんだ、」

皆より一歩前に踏み出し、セフィロスに近付こうと脚を動かしながら、彼は皆を鼓舞するように声を振り絞る。

「ホーリーが、……ホーリーがそこに、あるんだ……! ホーリーが、輝いてる……、エアリスの、祈りが、輝いてる……!」

「ホーリー……」

「エア、リス……」

身も心も打ち砕かれそうになっている皆に、今度こそはっきりと彼の声が聞こえた。ホーリーが輝いている、エアリスの祈りが輝いている。

忘れるはずもない、星に祈りながら命を落とし、星へ還った彼女を強く想った。彼女の祈りは届き、今も尚、ホーリーは発動しようとしているのだ。それを阻害しているセフィロスを、この場で倒さなければならない。

その言葉に、皆の意識は弾かれたようにして、再び鮮明になりつつあった。仲間を想い、星を想い、そうして全員でここまで来たことを思い返す。

「まだ、終わりじゃない……、終わりじゃないんだ!」

クラウドの手がセフィロスを包んでいるバリアに届いたとき、辺り一面が眩い光で満ちた。



「うわあああ!」

「なになに、どうなってんの!?」

先程までの暗闇も、身体の強張りも、全てが突然に消えてなくなった。どさり、とどこかに落ちたかと思えば、真っ黒に覆われた地面の上に居る。

「身体が動くわ……」

「みんな、無事か!?」

この一瞬で何が起きたのか、皆の安否を把握しようとクラウドが声を上げる。辺りを見れば、仲間が皆、同じようにして、この空間に立ち尽くしている。

ひとまずは無事に、あの暗闇から抜け出せたのだと思っていた時、ヴィンセントの焦る声がその空間に響いた。

「イリス……!」

その声に、先程まで彼が背負っていたはずのイリスの姿が見えないことに気が付いた。この一瞬で、彼女が姿を消してしまった。

彼が、彼女を離すはずがない。あれほど彼女を愛し、護ろうとし、自分の命よりも大切に想う彼女を離すはずがない。そうなれば、彼女が消えた原因はひとつしかない。

「セフィロス!!」

ただ延々と続く地面の上で、クラウドが叫んだ。セフィロスはここに居る。イリスと共に居る。姿を現せといわんばかりに叫んだその声は、暗い地面にこだましていった。



「クックック……」

しんと静まり返っていたその空間に、あの低く不気味な笑い声が響いた。咄嗟に辺りを見渡せば、上方から音もなく姿を現す彼が目に入る。

先程見た彼の姿とは違う、真っ黒な翼に覆われ、不敵な笑みを浮かべている彼が地面に降り立った。

その下半身は異形のものと化し、腕とも脚ともつかない翼のようなもので身を覆っている。そして彼の背中には、眩い光輪のようなものすら見える。まるで彼が歪んだ天使であるかのような、そんな姿をしていた。

「セフィロス……」

クラウドの声に応えるようにして、彼は再度口元に笑みを浮かべた。もはや人間の姿からはかけ離れた彼は、それでも嬉々として口角を上げている。

彼が腕を大きく振りかざし、ばさりとその翼を一度羽ばたかせると、黒い羽根が辺りに舞い上がる。そして、彼の奥にぐったりと横たわっている彼女の姿が見えた。

「イリス!」

思わず声を上げ、駆け出そうとしたヴィンセントだったが、セフィロスが腕を再度振りかざすと、全員が薙ぎ払われるようにして後退させられる。

「セフィロス……、俺達は……」

彼の脅しに屈してはいけない。彼女はまだきっと生きている。生きているからこそ、こうしてわざと自分達に見えるように、彼女を横たえているのだ。

痛みに耐えながら立ち上がり、大剣を構えたクラウドは、その切っ先をセフィロスに向けながら言葉を紡ぐ。

「エアリスの想い、俺達の想い……その想いを伝えるために、俺達は来た!」

彼の叫ぶ声に、皆も立ち上がる。武器を構え、セフィロスを囲むようにして近付いてゆく。

彼の言葉通り、ここまで来たのだ。文字通り、全員で。今は亡きエアリスを胸に、命を顧みずにここまで来たイリスと共に。誰ひとりとして欠けることなく、全員がセフィロスと対峙しているのだ。

「さあ、星よ、答えを見せろ! そしてセフィロス、全ての決着を!!」

クラウドの言葉を合図に、セフィロスはその目をかっと見開くと、凄まじい速さで攻撃を開始した。

たった一人を相手に、これだけの人数で総攻撃に出ているにもかかわらず、彼はまるで怯む様子はなかった。

本当に彼を倒せるのだろうかと、攻撃を繰り返す度に、不安が皆を襲った。攻撃は確かに命中しているというのに、彼は受けた傷をもろともせずに、攻撃の手を一切休めない。

左右に伸びた翼から、それぞれ異なる魔法を唱えている。上下の翼は絶え間なく皆を薙ぎ払い、地面に叩きつけている。

「……」

彼は一言も言葉を発することなく、淡々と攻撃をしている。対する皆は、息も絶え絶えに、互いに傷を回復し合いながら、反撃を繰り返す。

諦めてしまいそうになる気持ちを何度も押し殺し、ただひたすらに、彼への攻撃を続けた。これが最後の戦いになるのだと、ここで何としてでも彼を倒すのだと、皆の想いはひとつとなって、彼に向かっていった。


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