あなたと迎える日 朝

「ヴィンセント!」

「イリス……」

その日の夜に、自宅のアパートで眠りにつくと、彼のいる世界へ戻って来られた。梟の言っていたことは本当だったのだ。前にここに居たときから、とてつもなく長い時間が経ったような気がする。

自分はやはり、飛空艇のあの部屋にいた。彼は窓際に立って空を眺めているようだった。最後に見た暮れかけの夕日は、今はもう完全に沈んでしまっているようだった。

自分が彼の前から姿を消してから、どれくらいの時間、彼を一人にしてしまっていたのだろうか。あちらとこちらとでは、時間の経過も違うようで、どうもこの感覚に慣れない。

結局のところ、何がどうなったかと言われたら、きちんとした説明は出来そうにない。

現実では大学へ行って、夢の中では彼等と旅をする。もしかしたら、これは全て逆なのかもしれない。現実では旅をして、夢の中では大学へ行っているのかもしれない。

或いは、どちらの解釈も誤っているのかもしれない。何故なら、どちらも実在する世界で、その世界の住人にとってはどちらも現実なのだから。



「ヴィンセント、私……戻って来られました」

「どうやって」

「それは、説明をすると、長くなってしまうんですけれど」

未だに目の前の光景が信じられない、といった顔で、不安そうな彼を安心させるように抱き締めた。同時に、彼のぬくもりに自分も安心する。

「大丈夫です、ちゃんと説明します。もう、大丈夫」

「それでは……もう、消えることはないのか?」

この一週間、自分の身に起こった出来事を彼に話せば、彼はどんな顔をするだろうか。

「もう消えたりしません」

それを聞いた彼は、もう一度強く抱き締めた。もう二度と離さないというように、きつく抱き締めた。

これは夢なのかもしれないが、今はたしかに彼を感じている。これは紛うことなく現実でもある。これが夢であろうとなかろうと、夢中で彼に恋をする。


2014.1.26 完結
2020.6.4 加筆修正


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