5日目 朝
昨夜もずっと、彼と一緒にいた。同じベッドでくっついて夜を明かした。しかし、昨夜は決して甘い雰囲気だった訳ではない。ベッドに座って、この不安のたねを打ち明けていた。
夢が覚めなくてよかったと、心の底から安堵した。
昨夜は結局、話し始めるなり彼がとことん追及してきたので、最後には全てを話すことになった。
もちろん抵抗はあった。しかし彼のまっすぐな目を見ていると、全てを話してもいいという気になってしまったのだから不思議だ。それに、夜特有の鬱々とした気持ちが後押しをしたのかもしれない。
そんなことをしていたらとっくに夜は明けてしまった。涙まじりに話していたことと、寝ていないこととで、目は真っ赤に腫れていた。
彼も当然疲れているだろうに、皆が起き始めるなり、事情を話してくると言って部屋を後にした。
「待ってください、私も行きます」
「その目で、か」
ベッドに座ったまま、立ち去ろうとする彼のマントを掴んだが、すぐに一蹴されてしまった。
「……寝ていろ」
決して威圧的な声ではなく、むしろ優しさを含んだ口調で彼は言った。寝ていないのは、あなたも同じはずでしょう、そう言おうとしたが口をつぐんだ。
不思議なことに、一度彼にそう言われると、一気に眠気が襲ってきた。そのままベッドに倒れ込む。
もう、覚めなくていい。ずっと、こちらにいればいい。これほどまでに、自分を気にかけてくれる彼がいる、仲間がいる。皆と一緒に居たい。
「イリス、おはよう」
「あ、おはよう……」
目が覚めたのは、もう日が落ちかけている頃だった。やはり飛空艇の中だったことにほっとした。ひょっとしたらもうずっとこちらの世界に居られるのではないなと、かすかな期待すらしてしまう。
そして部屋を出た瞬間に、エアリスとばったり会ってしまった。気まずい顔で彼女を見つめ返す。彼にどこまで聞いたのだろうか。気が変になったと思われてはいないだろうか。
「ヴィンセントに聞いたけど」
「う、ん」
「体調、悪いんだって? だいじょぶ?」
「……だ、大丈夫!」
貼り付けた笑顔とぎこちのない口調でその場をやり過ごした。彼女は何も聞いていないのかもしれない。とにかく、そのことで仲間に気を遣わせなくてよいとわかって、だいぶ気持ちが楽になった。彼に感謝しなくては。
「そういえば、クラウドが、イリスに話あるって」
「そう、だったんだね。ありがとう」
あの寡黙なクラウドが自分に話があるらしい。そう考えるとやはり、クラウドは事情を知っているのかもしれない。とにかく、話をしてこなければならない。逃げ続ける訳にはいかない。
「イリス。ヴィンセントから話は聞いた」
呼ばれた部屋に入ると、クラウドとヴィンセントが二人で話をしていた。どうやら、クラウドだけに話をしてくれたらしい。下手に話を広げなかった彼の配慮に感謝した。
「その……ごめんなさい。すごく妙な話だし、私も未だに信じられないくらいだから、きっとクラウドも信じられないと思うけれど」
「信じるよ」
「え……?」
「信じるよ、イリスの話」
その言葉に驚き、感動して、大きく開けた目に涙がたまっていくのがわかった。
「大変だったな、イリス」
目元と口元を少し綻ばせたクラウドの顔が見えたが、それはすぐに滲んでしまった。
「ありがとう……」
それだけ言うと、両手で顔を覆って泣いた。不安は拭いきれていなかったが、感謝の気持ちがあふれてしまった。こんなにも自分のことを案じてくれる仲間がいてくれる。
もう離れたくない、とすら思った。もう、大学のことなど忘れ去ってでも、自分は旅をしたかった。この仲間達と、ずっと一緒に居たい。
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