4日目 朝

意識が戻った。夢から覚めてしまった。自分は今日も、アパートのベッドの上で一人目を覚ますとわかっていた。

しかし、今日の夢はいつもと違った。

まず、三日連続でこの夢を見たのは初めてだった。そしてもうひとつ、自分は初めて、この夢の中で、それが夢であると自覚した。

他の夢を見ているときは、たまに、ああこれは夢だ、と思うことはあった。だから、どれほど怖い夢でも、悲しい夢でも、それが夢であると自覚さえすれば、怖いことも悲しいこともなかった。

問題なのは、この幸せな夢の中で、それを夢と自覚をしていないことだったのだ。目覚めたときの悲しさや虚無感は底を知らない。

しかし、今回は違った。初めて、夢の中で自覚したのだ。そのことで、今日の目覚めは幾分か覚悟が出来ていた。それでもやはり、悲しいものは悲しい。

少しだけ泣きそうになりながら目を開けて見た光景は、昨夜と何ら変わらない、飛空艇の中だった。



「………ん?」

おかしい、いつもと違う。驚き、がばっと上半身を起こした。こじんまりとした小さな部屋には機械音が聞こえ、窓の外には雲が見えた。

「……」

そしてすぐ隣には、赤いマントに身を包んだ彼にの姿が目に入った。

「ヴィン、セント……?」

こちらの呼び掛けで、彼も上半身を起こした。狭い簡易ベッドに二人を乗せたベッドは、ギシッと悲鳴をあげた。

「よく眠れたか?」

彼は頭を撫でながら言った。

おかしい。自分はもう目が覚めている。だからここは、飛空艇ではなく、自分のアパートでなければならないはずだった。何も言えずに、ただじっと彼を見つめていた自分に、彼は頭を撫で続けた。

「なん、で……」

何がどうなっているのかわからなかった。 パニックに陥りそうになっていたところへ、彼はそっと口付けた。狼狽しているこちらを宥めようとしてくれているのかもしれなかった。

「ヴィ、ン……セント」

しばらくして口を開くと、彼はこてんと首を傾げる。

「あの、私は、私はずっとここにいましたか……?」

「……? ……ああ。隣にいたはずだが」

「そうじゃなくて」

質問の意図がわからない。そんな顔をしながら、それでも意図を汲みとろうとしてくれている。

「私はずっと、貴方といましたか? ずっと、みんなと一緒でしたか? 朝も、夜も」

「ああ」

「本当に……?」

「イリスがいなくなっていたら、私はこんなところで悠長に構えてはいまい」

何も聞かず、何も言い返さず、彼は答えてくれる。そうか、自分はずっと、ここにいたのか。

これは夢か、それともこちらが現実なのか。

いや、そんなはずはない。自分は大学に通っている。家族もいれば、友人もいる。「私」は「私」だ。

「何か気になることがあるのなら、」

そのまま話を促すように黙り込む彼に、無性に泣き出したくなった。突然おかしなことを聞く自分を一蹴することもなく、真摯に答えてくれるのだから。

どうしたものか。ここで話してもよいものだろうか。

しかし、これは夢だ。いつか覚める夢だ。早いか遅いか、それだけだ。大学生の自分と、旅をする自分。どちらも自分であることに変わりはない。ただ片方が夢で、片方が現実というだけだ。

「いえ……何でもないんです」

無理に作った笑顔を、彼は見抜いていただろうか。


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