買いたての10時

以前から「連絡手段が無いのは不便だ」と仲間から文句を言われ続け、「俺の声が聞けなくてイリスは寂しいんじゃないのか、と」と自意識過剰なことをタークスに言われ続け、追い討ちとばかりに「二人して信じられない」とマリンに失望されたため、遂に携帯電話を買うことを決意した一組のカップルの壮絶な闘いの話である。



意を決してやってきた携帯ショップには、見たこともないような眩しい機械が壁一面にずらりと並んでいた。ちかちかと発光する機械に目を回しそうになっているイリスの横で、ヴィンセントは書類の記入に四苦八苦していた。そうしてやっと機種を選ぶところまで事が進むと、またもや手続だと言って店員にあれこれと説明をされる。

大変お待たせ致しました、と言われながら受け取った2つの紙袋に、待たせ過ぎだと心の中で悪態をついた。それ以上に、慣れない機械に囲まれた二人は既に疲弊して、店の扉を出て二人で顔を見合わせて笑った。

その後さっそく神羅屋敷に持ち帰って中を開ける。疲れていたも、やはり新しいものを手に入れた期待感には勝てないのだ。画面をタッチして操作するタイプの、赤と黒の色違いの携帯電話を袋から取り出す。



「えっと……まずはどうしたらいいんだろう……?」

「最低限必要な機能は既に搭載されているらしい。変えたければメールアドレスを変更して、皆に送ればいい」

「私、別に変えなくても───うわ、なんだこれ」

「初期設定では英数字がランダムに並んだアドレスになっていると聞いた」

「覚えにくいね。やっぱり変えようか。ねぇヴィンセント、アドレスってどんな感じにすればいいのかな」

「……人それぞれだが……」

「うん」

「……例えば名前のアナグラム……」

「……うん」

「……或いは誕生日を入れることも多いらしい……」

「……そうなんだ……」

「……」

「……」



「……だめだ、思い付かない。ヴィンセントはもう決まった?」

「いや」

「みんなのアドレスを参考にしてみようか」

「みんな?」

「うん、この前セブンスヘブンで集まった時に教えてくれた」

「私も何人かから教えられたな」

「とりあえずクラウドの見てみよう」



「うーん、やっぱり解読できないや。CSはイニシャルだよね多分、でもそれ以外よくわからないね」

「解読するものではないと思うが……自力で考えろと言うことだな」

「悩むなあ」

「……」

「あれ、ヴィンセントもう決まったの?」

「いや……おいイリス、」

「どれどれ……って、ヴィンセント、これ」

「……さあな」

「わ、私もヴィンセントのVって入れる!」

「……好きにしろ」

「やったー!」





「クラウド、メール来てるよ」

「メール? 誰からだ?」



『新着メール2件』
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To : クラウド
From :
Sub : non title
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クラウドこんにちわイリスです。
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「イリスからだ」

「そっか!ついにケータイ買ったんだね」

「ってことはもう一通は多分……」



─────────────
To : クラウド
From :
Sub : non title
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ヴィンセント・ヴァレンタイン
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「やっぱりな。メールでも無愛想なままか」

「ふふ、でも、ヴィンセントが絵文字ばっかりのメール送るところなんて想像できないよ」

「それもそうだな」

「二人で仲良く買いに行ったってワケね」

「想像に難くないけどな。ティファにはメール来たのか」

「ううん、来てない」

「まぁ、そのうち来るさ。機械相手に手間取ってるんだろ」

「それも想像に難くないね」

「それにしてもこのアドレスは……ヴィンセントもこういうことするんだな」

「ふふ、それは言わないであげよう」



一人目、ヴィンセントとイリスのバカップルなアドレスに苦笑するクラウドへ送信完了!


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