離別

「見たか? セフィロスだ、やはりここに居たのだ! ジェノバのリユニオンとセフィロスの意志の力だ!」

セフィロスが姿を現したことで、宝条は飛び上がるほど歓喜していた。自らの仮説が証明されたことがそれほど喜ばしいのだろうか。

「セフィロス……俺、黒マテリア持ってきました」

喜ぶ宝条を余所に、クラウドは導かれるようにセフィロスの元へ向かった。目を閉じたままのセフィロスに、クラウドは黒マテリアを渡す。

渡すというよりも、彼の胸の辺りに近付けるよう、ぐいと黒マテリアを押し込んだようにも見えた。

「ああ、本物のセフィロス……ライフストリームに拡散することなく、ここへ集結していたのだ!」

「宝条……何がそんなに嬉しいの? どういうことかわかってるの? クラウドは黒マテリアを持ってるのよ! セフィロスに渡してしまったのよ! セフィロスがメテオを呼んだら、みんな死んじゃうのよ!」

涙ながらに叫んだティファの声は、狂ったように歓喜している宝条にも、自我を失ってしまったクラウドにも届かなかった。

クラウドが黒マテリアを渡したことで、セフィロスを包んでいたバリアのようなものが、透明から黒い色に変わっていった。

洞窟のあちこちが、がらがらと音を立てながら崩れ始める。砂埃が舞い上がり、目を開けているのもやっとの状況になっていた。



「……う、」

「イリス? どうした、イリス」

セフィロスを目の前にして、何が起こっても不思議ではない状況だったが、やはりというべきか、イリスは頭を抱えながら倒れ込んでしまう。

「そろそろここから出た方が良さそうだ……スカーレット、飛空艇を呼べ。……君たちも一緒に来てもらおうか、色々と話が聞きたい」

壁が崩れ、どんどん光が失われてゆく空間で、ルーファウスは脱出を提案した。この際、敵だろうと、ここから逃げ出せるのならば飛空挺に同乗した方が良い。

「イリスは私が背負う。バレットはティファを。皆、走れ」

ヴィンセントは軽々とイリスを背負うと、慌てふためく仲間に冷静に指示を出した。皆彼の言葉に頷くと、ルーファウスに続いて走り始める。

「待て、そのサンプルの腕についているものは何だ? 何故発光している?」

「黙れ」

宝条は発光しているイリスのブレスレットを見るなり、彼女の腕を掴もうとする。しかしヴィンセントがすかさず阻止し、宝条から離れたところまで駆けた。

「ふむ……」

何やら考え込んでいる宝条を、スカーレットと呼ばれた女性が引っ張り、走り始める。

「待ってよ、クラウドが! クラウドがまだ……」

混乱の中クラウドの居る場所を振り返れば、彼はその場から動こうともせずに、瓦礫の中で佇んでいる。

バレットの腕の中で暴れるティファの気持ちは痛いほどわかったが、今はここを離れなければ全員の命が危ない。

「クラウド!!」

彼女の悲しい叫びはその空間にこだました。しかし次の瞬間には、天井部分までもが崩れ去り、再び入ることは困難になった。

皆どうすべきか判断がつかないままに、ただひたすら走り、その空間を後にした。



クレーターを出たところには飛空艇が停まっていた。急いで縄梯子を降ろさせると、皆で必死になって上った。ヴィンセントもイリスを背負ったまま器用に梯子を上ってゆく。

「私も残る! 放してよバレット!」

「お前まで巻き添えんなるぞ!」

飛空艇の手摺に掴まり、クレーターを覗き込むティファを皆で宥める。みるみる塞がってゆく大穴を目の当たりにして、彼女の顔が絶望に歪んでゆく。

「クラウド……」

泣き崩れる彼女の周りに集まった仲間も、今はただクラウドの無事を願うしかない。

「さて、君達はこっちだ。おい、連れていけ」

「何しやがる!」

「生憎、能無しのパイロットに用はないのだ」

「なんだとぉ!?」

空洞の中に取り残されたクラウドを心配する暇もなく、飛空艇内ではまた攻防が繰り広げられていた。

ルーファウスは部下に命じてバレットとティファを連行してゆく。彼に噛み付いたシドを始めとして、他の仲間は別室へと連れていかれるようだった。

「待て、そのサンプルも運んでおいてくれたまえ」

「……貴様」

ヴィンセントに背負われているイリスを指差して、宝条は興奮がさめやまないと言った表情で言った。

ぐったりとしている彼女を一人、宝条の元へと行かせるわけにはいかない。

「イリスは渡さない」

「実力行使は下品で好きではないのだがね」

宝条が部下に何やら命令したかと思うと、神羅兵の一人が銃をヴィンセントに向けた。ぐったりとしているイリスをマントの中に隠すようにして、尚も宝条を睨んでいるヴィンセントに、緊張が漂う。

「これで最後だ。そのサンプルをこちらへ」

「渡せないな」

何の迷いもなく答えたヴィンセントに、間髪入れずに神羅兵が銃を放った。弾は彼の脚に命中し、片膝をついたところへ、ぞろぞろとやってきた兵士たちによってイリスが連れていかれる。

「イリス!」

「おい、イリスをどこ連れてく気だよ!」

こちらも暴れながら叫ぶユフィだったが、皆の声も虚しく、バレットとティファはルーファウスの元へ、イリスは宝条の元へと連行されていく。

「イリス、必ず助けに行く。必ずだ」

自らの出血を気にすることもなく、ヴィンセントはうつろな目をしているイリスに向かってそう言った。


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