上司サンド:BBB | ナノ
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06 : In the Midnight


PLLLLL、電話が鳴る。
レオナルドとわかれたスティーブンは誰もいない自室のソファで呼び出し画面にあらわれた名前を確認した。

『お嬢様(フロイライン)』

その名前で登録されている人物は、諦めることなくコールを続ける。PLLLL、と携帯はスティーブンを呼び出し続ける。
コールの回数が限界を向かえ、今度は留守録がまわりだす。

『スすすすてぃーぶんさぁああああん、ううっ、どして出てくんないんですかぁああああ!はくじょおものめ!かわいい部下が今まさに!ぶらっくもんすたーとの戦いしてるのに!クラウスさんも!ぎるべるとさんもいないのに!ほ、ほほかに誰を頼れると?!このままじゃわたしはあいつにやられちゃいますよ?!ついでにごはんもたべてませんおなかすきましたたすけてくださいいいいいい、すてぃーぶんさぁん!!!ひいっ、あああああ』

ぶつり、と。
何だか盛大な音と供に電話は沈黙した。

「……っ、はははっ、まったくあのフロイラインときたら困った子だなぁ」

着信履歴に残った名前をそっと撫でる。まったく、この子は静かな夜に感傷にひたる暇すらくれないのだ。



「こんばんは」

昼間の喧騒が嘘のような、静かな室内はすこしばかり散らかっている。とびちった新聞、すりっぱ。それらをきちんと元に戻しながら、我らがボスの椅子にへばりついて泣いているアリスに声をかけた。

「ひっく、ひっく……くるのが!おそいですよぉおおお!」
「…そう?もう片付いたの?じゃあせっかく来たけど俺は帰ら、」
「いやぁあああ、ごめんなさいまって!まってくださいよ!ひとりにしないで!やつがくる!くる!」
「君ね、大げさすぎ。ごき、「その名前を口にシナイデクダサイ!」…例のイキモノなら始末したよ」

ほうっと胸をなでおろす。逃げ回っていたせいか、はだしだったアリスを押し留め、部屋の隅で見つけた靴を履かせてやる。

「ありがとうございます……その、こんなまよなかにほんと、もうしわけない」
「いいよ。俺も暇だったしね」

タッパーにつめて差し入れたヴェデット特製のローストビーフを美味しい美味しいと泣いて食べるアリスを眺めながら、「単純なもんだよなぁ」と自己分析をこぼす。はしゃいでいた。そのあとで少年にあい、浮上して、部屋にもどってまた少しだけ感傷にひたっていて、けれど我侭なお嬢様と真夜中にホームパーティーの続きをしているのが、地味に楽しい。

「こんなにごちそうすごい!幸せ!」

用意してもらっていた料理の材料をもれなく黒い得たいのしれない塊に変えてしまったバカ娘は、嬉しそうにご飯をほうばる。

「お嬢様のくせに安い幸せだなぁ」
「やすくないです。真夜中に電話したら、すぐにきてくれる人がいるってものすごーくありがたい幸せを私はかみ締めてます。ありがたい!おうちなら私はひとりでなきながら朝を迎えていたところですからね!うち、無能者には優しくないんで!」
「……きみんちはよくわからんな」
「スティーブンさんを煮詰めてもっと手酷くしたらうちの親族になりま、すって、ああっロースとビーフとっちゃいやです!ごめんなさいごめんなさいスティーブンさん素敵!かっこいい!だておとこ!料理までできるとか隙なさすぎて怖い!!」
「スープはいらないんだね」
「いただきます!やだやだ、だしおしみよくない!」

にぎやかに、夜は更けていく。

「アリスは一家に一台いるといいかもな」
「へ?」
「あにまるせらぴーっぽい気分」
「……あの、勝手に人をペット扱いはどうかと思います」
「動物を飼うのを推奨したのは君だろ?」
「犬とか!猫とか!手乗りいんことか!他に選択肢いっぱいあるでしょうに!」
「それだと餌がいるじゃないか」
「………わたしをなんだとおもってんですかあああぁぁぁ!」


(わたしだってごはんがいります)


問題はそこじゃあない。



PLLLLL、電話が鳴る。
今日も電話が鳴る。
明日も、あさっても、この電話が鳴ればいいと、思っているからもうどうしようもない。














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