上司サンド:BBB | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



05:Frozen Party


アリスは甘やかされた末っ子だ。それも、たちの悪いことに大変に打たれづよくへこたれない。

「スティーブンさん、お願いがあります」

アリスが目を輝かせて“お願い”なんて口にするときには、大抵ろくでもないことである。
それがわかっているから、スティーブンは返事をしない。コーヒーを一口飲んで、書類をめくる。遠巻きにレオやザップが様子を伺っている。

「カキ氷が作りたいので、コレ凍らせてください!」

製氷の器に水がはいったものがテーブルにそこかしこと並べられている。シロップもたくさんありますよ!という言葉のとおり、床には青だの赤だの様々な色の液体の入ったボトルが転がっている。
カキ氷パーティーしましょう!と、アリスはうきうきと『カキ氷〜日本の夏を楽しむ〜』なんていうタイトルの本を自慢げに掲げている。
スティーブンは勿論、こいつ何馬鹿言い出したんだ、という顔をした。徹夜4日目の脳みそはどこまでもストレートである。しかし、テンションの振りきれているときのアリスは気づかない。
空気をよまない元ひきこもりのお嬢様はノリノリである。

「アリス、果物を用意してみてはどうだろう」

「アイスクリームとかのっけてもいいみたいですよ!紅茶味のシロップとかどうでしょうかクラウスさん」

「うむ、ギルベルトに聞いてみよう」

「……クラウス、君もなのか」

「暑い日が続いているし、君もまいっているだろう、スティーブン。書類の処理速度がいつもの半分以下だとアリスが言っていた、休息も大事だ」

異国の庶民菓子にラインヘルツ家のお坊ちゃままでノリノリでは、最早スティーブンに拒否権はない。
しかも、書類の処理速度に関して言われてしまえば反論できない。確かに普段ならしないミスを繰り返していたのも事実である。

「……やれやれ。じゃあゆっくり寝かせてやろうって奴はいないのかい?」

「わーい!かき氷!かき氷!かきごおりつくぅーろー!しごとやめてぇー♪」

アリスのご機嫌な替え歌にレオ、ザップ、そしてチェインは噴出した。K.Kはもう腹をよじって床に打ち震えている。
某有名アニメーションで鼻歌を歌いながらスティーブンをデスクからアリスは引き剥がす。

(おじょうさま、強ぇ……)

アリスと氷の番頭……そんなタイトルが全員の頭をよぎる。つい先日、行われたDVD鑑賞会後に「れりごーしてHLに氷の城つくりましょう!」とかスティーブンに言っていたのも勿論アリスである。しばらく現場でスティーブンが氷を使うたびに、深刻な状態ながらアリスの呑気に歌う映画サントラが脳内を流れ思い出し笑いをしてしまっては、スティーブンに蹴り飛ばされていたのは勿論ザップである。

その場をさっくり混乱に陥れるアリスを“ライブラの堕落王”とか密かに呼んでいるものたちがいるとかいないとか。

「もしも、いつかこの世のすべてのフリークスたちがみーんないなくなったら、スティーブンさんはカキ氷屋さんになったらいいんじゃないですかね!」

冷たい菓子を食べて、ご機嫌にアリスは言った。――わたし、おこづかいもって買いに行きますよぜったい!


***


にぎやかなカキ氷パーティーが終わって、そのままスティーブンはアリスに仮眠室へと連行されていた。

「冷たいものなら、食べやすくてよかったでしょ」

手をひかれるままに、歩く。

「はらをくだしそうだ」
「え」
「距離をとるんじゃないアリス」
「……といれ、いきます?」
「冗談だよ」

徹夜が続くたびに、うろちょろとアリスはスティーブンの世話をはじめる。あまりにもタイミングよくスティーブンの限界ぎりぎりをみはからってくるのだ。一度無視して仕事を続けて、倒れてから、なるべく言うことをきくようにしていた。徹夜がすぎると、あたまのわいているスティーブンの過激な悪戯回避のためにもアリスは割りと必死だったりするのだが、そのあたりのことはスティーブンは都合よくスルーしている。

「わたしのブランケットかしたげます」
「それはありがたい話だ」

アリスが鼻歌をうたう。それを聞いてスティーブンは眉をしかめる。まったく、こうなるとわかっていたから、スティーブンはくだんの映画をアリスに見せないように努力していたというのに。
仮眠室のベッドにおしこまれる。アリスが窓のカーテンをしめると、部屋がうすぐらくなる。空調がよくきいているせいか、肌寒いくらいの温度だ。

「おやすみなさい、スティーブンさん」

ベッドのはしに顎をのせて、床にすわったアリスはお仕事完了とばかりに満足げだ。

「アリス」
「はい?」
「“Okay, can I just, say something crazy?”」

某映画のように、かすかにメロディをつけてスティーブンが言う。
なぁ、ちょっとおかしなこと言ってもいい?、それにこたえる台詞はばっちり覚えていたが、

「……だ、だめです」

その言葉に、何か危機感を感じたのかアリスが立ち上がって逃げようと腰を浮かせかける。

「まぁ、そういわずに」

おかしなことを言うより早く、ベッドのはしっこにのせられていた、手をつかんで布団の中にひきずりこんだ。

「ひぇっ、だ、だだめですと言ったのに?!」
「あー、ぬくい。こどもたいおん癒されるね」
「こどもたいおんって!」
「ベッドにおけるおとなの体温の上げ方についてレクチャーしてほしいならしてもいいけど」
「けっこう、です!」
「ほら、大人しくしろってアリス。」

耳まで真っ赤にさせている子どもを抱え込んで、くつくつと笑う。ああ、もっとからかってやりたい。そんな欲求はあるのに、まぶたがおもくたれさがる。

「……あつくるしくってもしりませんよ」

精一杯のにくまれぐちをたたくお子様は抵抗を諦めた。
答えはない。かわりに自分を抱きしめているかたまりから深い寝息が聞こえてきて、アリスは小さく溜息をついた。











prev / next