The Unbirthday Song
(何でもない日、万歳!!)
「ツェッドくん、ツェッドくん」
アリスはツェッドを見かけてはニコニコと駆け寄ってくる。
暇を見つけては水槽のところへやってくる。
面倒見のいい人なんですね、と評すれば『あれはどちらかというと面倒をかける側の人間だ』とライブラの副官殿は言う。
公園に行こう。
アイス食べよう。
映画見よう。
お勧めのダイナーでアップルパイも一緒に食べた。
『クラウスさんに飲んでもらおう!“紅茶”特訓』とやらの協力もするようになった。
アリスはツェッドにかまう。ヒューマーにすら人見知りがちの彼女にとって、異形の自分は馴染みにくいもののはずなのに。
「どうして僕にかまうんですか」
「どうしてだとおもう?」
「質問に質問を返すのは失礼です」
「…ごめんなさい」
「どうしてですか」
「うん」
へにゃり、とアリスが笑う。
「似てるなーって思って」
似ている?どこが?少しもツェッドには理解できなかった。生まれも育ちも、年齢も性別もそもそも種族さえも違うのに。
「似てないでしょう。」
「わたしも水槽育ちみたいなものだから」
水槽にもたれかかって、その中で浮かんでいるツェッドをちらりと眺める。
「来たばっかりの頃、してもらってうれしかったこと、今度は私がしてあげたいなぁって思って」
挨拶して、ごはんして、笑って、泣いて、頭撫でてもらったり、叱られたり、くだらない映画見て、お菓子食べて。
「…些細ですね」
「うん」
「でも、わるくないです」
「うん」
ツェッドくんならそう言ってくれると思ったんだあ、と小さくアリスが呟いた。
「ザップがね、明日は寿司いこうって」
「またですか」
「うん、また!」
「生魚は苦手なんですが」
「かっぱまきたべようかっぱまき」
「安い皿好きですよねアリスさん」
「安くてたくさん食べれるのが一番だよ。わさびは抜きで!」
「エビフライ巻きとか食べるんでしょうまた」
「食べるよ?ツェッドくんも食べよう、あれ生じゃないから」
水槽の外側と内側で背中合わせに会話する。ああ、そうか、と気がついた。多分きっと。新しい場所で“寂しく”ないようにと彼女は精一杯を自分に尽くしてくれているのだ。
「公園でちょっとしたショーをする予定なんですが、アリスさんも見に来ますか?」
「いく!楽しみ!」
さあ、あしたはなにをしようか?
prev /
next