上司サンド:BBB | ナノ
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Breakfast at Tiffany’s @HL


「ティファニーってまだHLにありますか?」

だしぬけにアリスが問う。ティファニー、女性達が焦がれる有名ブランドをこのブランドの「ブ」の字も知らないアリスが知っているとは思わなかった。

「あるよ。」
「あの、スティーブンさんにお願いが、」ともじもじとアリスが言う。何をこの後言わんとしているか、だいたいわかったので先回りして言ってやった。
「君にヘップバーンは無理がある」
「ぐうっ、なななな、べつに、まだ何にも言ってませんよ?!べ、べつにティファニーの前で朝食食べたいとかそんな、……なんでわかったんですかぁ」

大方のところ、昨日テレビでやっていた映画にでも影響されたのだろう。
別にいいじゃないですか乙女のささやかな夢をそんな木っ端微塵にしなくってもとぶつぶつアリスが抗議する。

「せっかくいい気分だったのに!」なんて座り込んでいじけるから、仕方なくスティーブンも座り込んで顔を覗き込む。


「ティファニーに行くなら10ゼーロがいるな」


ふてくされてとんがらせていた唇がゆるんで、瞳が輝く。「スティーブンさんが私の“フレッド”になってくれるんですか!」と、声を弾ませて。
ヘップバーン演じる奔放な女に振り回されながらも恋をした男の名だ。とらえどころがなく、それでいてどこか繊細な女に恋をする男。


「コーンキャンディも買わなくっちゃ」とアリスが言った。
今もなおこの街で売られるその菓子についていたおまけの“指輪”にティファニーで文字を刻む映画のワンシーンがいかにときめいたのかをアリスはとくとくと語る。クラウスをたぶらかすために見るべき100の恋愛映画、なんてリストを課題で出されているらしいが果たしてこれは効果があるといえるのか。クラウス相手にはイマイチ照れて実行できていないらしいが。


「猫がいるな。少年にソニックでも借りていくかい?あと雨が降っているとなおいいね」
「スティーブンさんは形から入るタイプなんですね!」
「雰囲気作りってのは裏仕事には必須科目だからな」
「き、きかなきゃよかった…」


彼女に恋をさせようとしている。彼女が自分にほれ込んでしまえばいい。そうすればクラウスに余計な鎖がつかずにすむし、権謀術数の世界から守ることもできる。彼女の理想のシチュエーションを用意して与えて。
騙すように恋をさせて。適当に相手をしてやれば、この恋に恋するお嬢様を騙すのなんて簡単だ。
ぐい、と二人の距離を詰めて。スティーブンは腕のなかにアリスをつかまえる。耳元に顔を近づけて、彼女が好きだという声で囁いてやる。

「ラストシーンには猫と、雨と、それから情熱的なキスが必要だろ?」

お手軽な恋だ。恋を知らないお子様な彼女は映画のワンシーンを思い出しでもしたのか、今更顔を真っ赤に染めた。

「そうやってすぐからかう!」

腕をつっぱねて、アリスが小さく抵抗する。真っ赤な顔で睨まれても少しも怖くないのだが。

「ん?今すぐがいいって?」
「かお!ちかい!キス禁止!フレッドはもっと紳士でしたぁっ」
「僕のキス好きだろ君」
「ほわっ?!」
「嫌いじゃないだろ」

ファーストキスもセカンドキスも、その後も全部スティーブンが頂戴したのだ。
あんまりにも簡単に流されてくれるものだからいっそ心配になる程だ。

「き、きすの話は今してな、い…!」
「何の話だっけ?」


ティファニーで朝食は結局、レオナルドとクラウスと一緒に食べたらしい。












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