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《冬島慎二の証言》

春ちゃんと太刀川について?
仲いいよな、あいつら。麻雀やるときも会話率は一番あの二人が高い。けどなぁ、色恋沙汰かって言われるとわからん。
太刀川だし。


春ちゃんと迅について?
仲いいよな、ほんと。そして春ちゃんはちょっと迅のこと好きすぎると思う。愛が重い。
色恋じゃない?いやいや、そういうのいいから。はよくっつけよ。
けどな、迅だしなー。



***



女子高生が大半を占めるオペレーター会から帰ってきた春は楽しかったらしが、少しだけ圧倒されたらしくぐったりと机に伏せた。
最近の春の調子が悪かったことが知れて、比較的仕事が少しばかり(年中無休で忙しいボーダー比で)減っているのもあいまって、小休止に誘われることが増えているらしい。そのひとつが女子オペ会(これに御呼ばれされるのは男性ボーダー隊員の憧れであり恐怖である)なのだ。

「どうして女性というイキモノは恋バナが好きなんでしょうかね・・・男性の猥談のがよっぽど聞き流すの楽ちんだったかもしれない・・・。いや自分の恋バナじゃなきゃ応援するし楽しいんですけどね?なんで皆わたしに話ふるんだろう・・・謎」

大体流れている噂なんて、眉唾物しかない、というが冬島はそれはどうだかな、と思った。火のないところに煙は立たないのだ。

「春ちゃん彼氏欲しいって言うわりにドライだよな」

「・・・・もう最近は諦めつつあります。みんなと楽しくつるめてたらソレでもう十分じゃないかなって」

新型トリガーの設計プランとにらめっこしながら、春が愚痴をこぼす。あれだけ迅と噂が広まっていればまぁそうなるだろうな、と冬島が笑うのも不服で仕方ないらしい。

「別にほんとにうまくいかなくってもよくて、ちょっとだけ普通のことしてみたいなって。すごい不純すぎて、キラキラした顔で恋の話してる子たち見て、罪悪感がやばいです。胸がはりさけそう」

「そこまで悩むもんでないだろ?おじょーちゃんたちだって似たようもんじゃん」

「無理・・・だめ。私はうすぎたないネズミだ・・・・ううう、ピュアな心を取り戻したい」


この大学生活自体が、春の逃げであり、自分に許した仮初の楽園生活で、4年間、普通に学んで、普通に遊んで、普通に恋してみたりして、そしたらもう二度と、普通になりたいなんてわがままを言わずに働いて、生きていこうと思っていたのだと、いじけるように言った。重い。迅にしろ、春にしろ、まず境遇がハードモードすぎる。どうにかイージーモードに切り替えられないのか。

今だってもう十分すぎるくらい幸せなのにこれ以上なにを求めるっていうんだと思っているらしい。


「そもそもが、恋って怖いですよね。だって、恋や愛は人を変えるんですよ?!いちゃいちゃのラブラブでも次の日には終わることもあるんです。怖い!人間不信ぎみかもしれないって自覚はあるんですけど。初めての失恋の話聞きますか?『春は恋に恋してるし、ちょっと年上への憧れをごっちゃにしてる』ですよ?恋って何?ってなりません?私はなりました・・・ネットでおすすめの恋愛映画100選とか見たけど謎は更に深まるばかりだった・・・」

「重っ」

さらりともたらされた失恋話だったが、どうも年上だったらしい。部屋の奥でがたり、と音がした。誰かいるんですか?と春が後ろを振りかえったので「鼠だろ」と冬島は適当に答えた。鼠が本部にでた、という話はまだ聞いたことがないが。

「恋愛ヘビー級チャンピオン八嶋です。つらい」

「・・・・迅とか仲いいじゃん。噂なってるし」

「・・・・ユーイチ君の将来を台無しにするなんて許されざる大罪犯せるわけないし、噂はほんとにどうにかならないものかと心底思ってるんです」

春はデスクにごんと頭を打ち付けた。許されない。それだけは絶対だめだ。春は迅に幸せになってほしいのだ、とぐちぐちと春が言い訳を並べる。
迅の相手に自分を割り振るなんて、身の程知らずな真似は絶対にない。許されてはいけない。
許されない、という言い方に少しだけ冬島は笑ってしまう。大人びてはいるけれど、難儀な子供であるのは間違いないなぁと思っている。


「じゃあ、太刀川とか」

「ないです。なんで皆そこで太刀川くんの名前出してくるのか本気で理解できない・・・」

そちらには即答が返ってきた。目が半目だ。
ほれみろ、と心の中で冬島は思った。
本気の恋愛は怖いだなんて言ってはいるが、とっくにしていることに気づいていない。鈍い鈍いと言われる冬島にさえも気づけたのに。


「それに、私が好きな人って大抵わたしじゃない人を好きになるし、大抵早死になんです。ユーイチ君には末永く幸せになってもらいたいのでなおのことダメですね!」

「重っ!」

「だから恋愛疫病神ヘビー級チャンピオンだって名乗ったじゃないですか。わたしは冬島さんみたく仕事に生きるしかない・・・」

「おれは!彼女!ほしいけどな!」

「またまた〜、今の生活楽しい癖に〜。女子高生に手を出したら通報しますんで」

「出すかよ!殺されるわ」

「冬島さんが殺されたら・・・うむ、犯人は特定しないでおきますね」

「せっかくなんだから知り合いの名探偵呼んでくれよそこは」

「新一くんにそんなくだらない事件解決させるのヤです」

「事件に大きいも小さいもくだらないもありません」

「青島くんごっこやめてください冬島さん」

「残念、そのセリフはすみれさんの台詞だ」

「もっとやめてください」








「って、春ちゃんは言ってたけど、そこんとこどうなんだ迅」

春が書類を提出するために席を外すと、冬島は向かいの棚に声をかけた。

「あ、バレてた?」

「春ちゃんは気づいてなかったけどな。なにしてんの?」

開発室の資料置き場から出てきた迅が頭をかいた。

「新型トリガーの開発でさ、春さん上に通す企画書の書き方書式が欲しいって言ってたから、昔おれが《スコーピオン》作った時のたたき台どっかにないか探してたんだよ」

「そこにあったか〜?」

「なかった。データうっかり消しちゃったから、手書きの書類の方でと思ったんだけどね。玉狛の方でも探してみるかな」

「あのあとドタバタしたもんな」

冬島が遠い目をした。迅も苦笑する。

「新しいデータの負荷にメインコンピューターが悲鳴あげて全システムがダウンしかけた魔の水曜日はもう二度と繰り返したくないわ。ほんっと、あれ酷かった」

「鬼怒田さんに殺されるかと思ったっていうか、実際そういう未来がちらついたときにはさすがにおれも反省した」

初期の開発はごたごたの中で進んだせいもあって、抜けも多かった。それに比べると今は随分開発に幅とゆとりがある。外部組織から来た春の意見も、新しい風として、いい方向に働くのが未来視を使わなくてもわかった。

「で、迅、恋愛ヘビー級チャンピオンをKOさせられんのお前」

「話戻すな〜冬島さん」

「青春がまぶしくて俺は毎度瀕死の重傷なんだよ、察しろ迅」

「まー、ボーダー外部に持ってかれるのはヤだよね」

「へぇ」

なるほど、まだすっとぼけるつもりらしい。

「長生きかー、結構ハードル高いなぁボーダー隊員だと」

「・・・・・・あぁぁぁ、おじさんツライ!なんなのお前らは!俺をこんな目に合わせて楽しいか!青春に焼き殺される!」

「春さんの恋バナでそんなんなってたら、当真や真木ちゃんの時どうすんの?」

「・・・・・馬鹿いうな迅。あいつらなら完璧スタイリッシュに『恋人?できましたけど何か問題でも?』って言うわ。おじさん突っ込む隙もないわ」

「確かに」

狙撃が一番の当真はともかくとして、狙った獲物は逃さない真木ならばそうだろう。

「視えてねーの?」

「ないない。恋愛は難しいんだよ未来読むの。結構ぶれる」

「初恋は年上だったらしいし、俺が春ちゃんを幸せにしてやろうか」

言うだけ言ってみる。

「あっはっは、冬島さんその冗談面白いねー」

笑い飛ばされた。が、眼が笑ってないぞ実力派エリート。
結局、どっちも重いのだ。好きすぎるだろうが相手のこと。これが恋愛じゃないならなんだ。重い奴ら同志、さっさとくっついてしまえばいい、と冬島は心の底から思っている。
もだもだした小さな恋のメロディみたいなことを目の前で延々やられていると、年長者はむずむず青春にあてられてどうしようもないのだから。
太刀川でも迅でもいいから、ほんと。あの擦れまくった恋愛観の小娘にぎゃふんと言わせてやればいいのだ。

「春さん、おれが何しても許してくれるんだって」

「へー」

自分のことは何一つ許せていないのに、迅は別らしい。

「おれだって、そうなのになぁ」

「胸焼けした、遠征艇酔いしたレベルで」

「酔い止めいる?」

「お前からの処方はまったくいらない!」


さっさとくっついてくれ、それが一番周りとしては助かる。いつまですれ違いのもだもだした両片思いを見せつけられればいいのか。
能力?サイドエフェクト?そんなものはすっとばせよ。と大人は思う。青春がまぶしい。

許されたい、と思っているはずなのだ。春は。
けど、かたくなで頑固者で、ひねくれているから、うまくことが進まないし、迅は迅で未来視で視えない自分と春との未来に二の足を踏んでいる。

首を突っ込めば、馬に蹴られるだけとは思いつつも、まったく当人たちに自覚のない痴話喧嘩まがいだったり、惚気にしか聞こえない愚痴を聞かされる冬島はなんて自分はかわいそうなんだろうと心底思っている。

「知ってるか迅」

げんなりと冬島は言った。


「真実はいつも一つだ、って名探偵は言ってんだぞ」

それって工藤新一さん?と首を傾げて、おれにとってはいつも真実一つじゃないけど、と言うからほんとに、このがきんちょどもと来たら面倒極まりないのだ。


「知ってた冬島さん?最善に至るルートって結構たくさんあるんだよ?おれはそれをうまい具合に誘導してると思うけど、春さんってたまにナビをガン無視で進むんだよね。だからおれはいつでも最短最速のルートで捕まえときたいんだよ」

真実と、最善は違うだろう。
だが、迅にとって今は真実よりも最善の方が優先度が高いらしい。


「ね、冬島さんだって《太刀川》って選択肢を春さんに出したわけでしょ?」


迅がすっと目を細めた。あ、これは何かまずかったのかもしれないな、と思ったけれど、迅はすぐに書類を持って「また来るね!」と出て行ってしまったので、それ以上何かを追及することはできなかった。







「寺島・・・」

冬島は同僚にして、春の同級生の名を呼んだ。

「何死んでんですか冬島さん」

「若者の青春が何かよくわかんねー方向に拗れだしてるのをうっかり目の当たりにして、おじさんは死にそう」

げんなりとした顔を寺島がする。

「その話題ふるなら、風間によろしく」

「冷たい同級生だなオイ」

「全面委任してあるんで」

「風間におまかせって?」

「俺と諏訪は中立ですよ」

「でもさ〜、こじれてるぞアレ。なんでああなんの?『好きだっ!(キメ声)』『わたしも!(裏声)』で何でおわんねーの?」

「風間がなんとかするんじゃないですか」

「なんとかなるのか・・・?」

そうとう拗れ始めている気が、冬島としてはひしひしとしているのだが、同級生たる寺島はマイペースを崩さない。このあたりの余裕が、迅にはイマイチ足りていない。どうせ八嶋はどこにもいかないだろ、という確信が何故かこの同級生組にはあるらしい、とそういえば迅が愚痴っていた。そうじゃない未来なんていくらでもあるのに、と迅はいい、だからこそ少しも安心できないらしく、常に春の未来をチェックしているらしい。許すのになぁ、といっていた割にはそこらへんどうなのかとも思う。

「さぁ?」

こじれた恋愛なんてものに、首を突っ込むなんてあんた若いですね、と寺島は感心したように言った。
いや若さじゃないだろうコレは、これはあれだ。老婆心というやつなのだ。

とりあえず冬島は迅と春をくっつけ隊(冬島は某実行委員会をこっそりこう呼んでいる)の総司令官たる月見蓮に、メールした。









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