HMK
( who?? )


∴ 11/13 ( 桃 )
 テーブルに腰かけて座り、バタービールが運ばれて来るのを待つ。初めて入る店内の様子に少しばかり、いや本当はかなり居心地が悪い。周りを見渡しても見知らぬ顔ばかり。
 当然だ、スリザリン生で三本の箒に来る生徒なんて殆どいないのだから。

 今日は制服ではなく私服に身を包んでいるため、傍目ではどこの寮生かは分からない少女は重い息を吐き出した。普段は互いにいがみ合い、近くに居ることさえままならないというのに。
 少女の複雑な気持ちを表すかのように握りしめたスカートには皺が寄る。


「はい、お待たせ」

 待ち望んだ声とほのかに香る甘い匂いにうつむいていた顔をあげる。と、そこにはバタービールを持った満面の笑みを浮かべるチャーリーの姿。

「あ、ありがとう」
「いえいえ」


――チャーリーと一緒にいるのって誰?
――スリザリンの子じゃない?授業で見たことある、
――え、何でスリザリンなんかと一緒に居んの?


 顔を寄せあい、ひそひそと囁きあっている。が、小声で会話をしようとすぐ近くのテーブルだ、自然と耳に入る言葉にチャーリーへ向けていた視線を再びふせた。
 ゆるく巻かれた長い髪がカーテンのように少女の顔を閉ざしてしまう。円形テーブルに並んで座っているため、チャーリーには少女の横顔が見えない。


「あー、やっぱり気まずい?」
「別に」

 どこか素っ気ない少女の返事にチャーリーが困ったようにため息を溢した。

 どうしてもっと可愛らしく答えられないのだろうと、軽い自己嫌悪に陥り唇を噛みしめる。二人の間に流れる沈黙が怖い。それを誤魔化すようにちびちびとジョッキに口をつけた。

 同級生と比べて筋肉質でがっしりした体型はそれだけで周囲の少女の視線を集める。大人の男として完成されつつある様子は男子にしてみても羨むものかもしれない。ましてや名シーカーとして活躍するチャーリーは英雄視されているため一緒にいれば目立つのは分かっていただろうに。
 それでも、やはり心は折れそうで。今すぐにでも逃げてしまいたい。

「せっかくのデートなんだしマダム・パディフットの喫茶店とかのがよかった?でもあっちはスリザリンの生徒居そうだしさー」
「で、デート!?」

 チャーリーから飛び出した言葉に口に含んだバタービールを吐き出しそうになった。ゴホゴホとむせると背中を優しく撫でられる。

「え、これデートだよな?」
「あ、う、や、」

 口から溢れるのは言葉にならない音ばかり。まっすぐに見つめてくるブルーの瞳に頬が熱を持つ。それを知られたくなくて俯いてサイドの髪で顔を隠す。と、「うつむくと顔が見えない」とチャーリーに髪を耳にかけられて。

「顔、赤いね」
「き、気のせいだから」
(もしバタービールにアルコールが入っていれば酔った、とか言えるのに…)

 何故いつまでも髪から手を離さないのかと思えば、ふと顔に影が落ちる。近付くコロンの薫り、そしてこめかみにキスが落とされた。

「っ!?」
「あ、やっとこっち向いた。次から下向く度にキスでもする?」


 チャーリーの思わぬ行動にこちらの様子を伺っていたテーブルからは悲鳴があがる。少女の顔は目の前の少年がもつ赤毛に負けないほど真っ赤に染まっていた。


チャーリー×スリザリン少女。
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短く短くと思ってたら短いの書けたよ(笑)



∴ 11/12 ( みなみ )
「えーっ!」
「ごめんね、今日仕込みが少ない日だったから……ちょうどあそこの悪戯っ子達で終わったの」

三本の箒の女主人は申し訳なさそうにヒラヒラと手を振ってカウンターの奥に消えた。始めてのホグズミードだったのに。先月は風邪、先々月は補修、今月こそはと思ってたのに。初めて噂のバタービールを飲めると思ってたのに。
それが、仕掛け人に阻まれるなんて。

「はあ……」
「なんだよ、でかい声出して」
「うるさい……あんたの、シリウスのせいで……わたしのバタービールが……」
「はあ?バタービール?あーそーいや俺で最後だって言ってたな」
「うう……食べ物の恨みは恐ろしいんだからね」
「はいはい。つーかバタービールくらいいつでも飲めんだろ?」
「あーこの子飲んだことなかったの。私達があんまりにも美味しかったって騒いだもんだから、すごい楽しみにしてて」
「ふーん……」

事情を説明してくれた友達は来月があるでしょ、と呑気なことを言っている。誰がこんなに期待を高めてくれたんだ、誰が。

「もう飲んじゃったからどーしよーもねえけど。明日、暇か?」
「え?うん、まあね」
「よし。明日出かけるから他に予定いれんなよ」
「えっ?」
「っつーわけで、ごめんジェームズ、また来週やろうぜ」
「はあ……はいはい」

何を来週にするんだか知らないが、というか会話のほとんどがわからないのだが、わたしのためというか、わたしのせいというか、とにかくジェームズ達の約束を後回しにしてくれたらしい。わたしの、ために。「じゃあまた明日、三時に四階の空き教室で」ぼそりと呟かれた。そこで何をするのか知らないけど、たかがバタービールと言われるかもしれないけど、さっきまで萎れていた気持ちが少しだけ元気になった気がした。



久々の更新。
後日談も書きたいな。


∴ 09/01 ( 桃 )
四寮の長テーブルが並べられた大広間。
何千という蝋燭が中に浮かび、ホール内を照らし出している。


本日の主役は初めて大広間へ足を踏み入れた、まだどのシンボルカラーにも染まっていない生徒たち。瞳をキョロキョロさせながらミネルバの後に続く。

数千もの瞳が自分たちをじっ、と見ていることに萎縮はしていないだろうか?それとも興奮し、わくわくが止まらない?


メインイベントはもちろん組分けの儀式。一旦始まってしまえば意識が集中するのは集団から離れ椅子に小さな身体を置く生徒。一体どの寮に決まるのか、胸をドキドキさせながら組分け帽子が告げるのを今か今かと待っている。希望の寮もあるかもしれない。ただ、望まぬ寮だからといって肩を下げないでほしい。君の隠れた素質に組分け帽子が気付き、新たな自分を発見するチャンスをくれたのかもしれない。

視線を動かし、上座の長テーブルに腰かけた教職員を見る。彼らも同じくあの場へ立っていた日を覚えているだろうか。誰しもがこの場からスタートしたのだということを。



ホグワーツは今日、また新たな年を迎える。
千年以上もの間、多くの生徒をこの目で見守ってきた。
毎年迎える生徒たちはとても個性的で、歩んでいく道は千差万別。
自信に満ち溢れた生徒もいれば、魔女という宣告に戸惑った少女もいただろう。
誰よりも機知に富んだ才知を持ち、野心に燃える余り行く末を危ぶむ者もいた。
真面目で実直な生徒。心優しい生徒。定められた運命に抗おうとした生徒。クィディッチに全力を注ぎ、夢を叶えた生徒。

また悪戯ばかりし、常にアーガスの頭を悩ませた生徒も。アーガスの髪がどんどん抜けていったのは彼らのせいなのではないだろうか。

悲しいことに、志半ばで命を落とした者もいる。

変わらず誰もが希望に満ち溢れた明るい未来を持っているというのに。それに目も向けず、闇に染まっていった生徒をただ見守ることしかできなかったのは今でも心苦しい。


全てが全て可愛い子供たち。

君たちはここでどんな出会いを果たし、冒険し、共に笑い涙を流し成長していくのか。

真っ白なキャンバスに一つ一つ色を乗せ、どんな傑作にも負けないような彩り鮮やかな作品を描くために。さあ、今日から7年間、輝きに満ちた毎日を始めよう――


(※何故かホグワーツ学校視点)




∴ 09/01 ( みなみ )
「久しぶりー!」
そんな言葉があちらこちらで飛び交っている。キングズクロス駅の九月一日ではもう見慣れた光景だ。何年も見てきたんだから。二ヶ月ぶりの再会に頬を緩め、同性異性人種を問わず抱き合って、カートを列車に乗せて学校までの道のりをコンパーメントを共にするみんなと夏休みに起こったことを順々に話していくの。家族とどこに行ったとか、クィディッチのどこ対どこを応援しててきたとか、誰それと付き合うことになったとか、どこが主催のパーティーに顔を出したとか。そしてそんなことをそれぞれ話し終えると大体ホグワーツが見えてきて、私服から制服に着替えてまた一年間、ここで学んでいくんだって気持ちを新たにする。
……なんて思い出を美化してみるけど、正直私の学生生活は勉強の二文字とは結構かけ離れていて、片思いの相手がちらりとでも見えようものなら乗り物酔いや空腹からくる気持ち悪さなんて吹っ飛んでた。あまり話もできないのに二ヶ月も顔が見れないなんてちょっとした罰ゲームの気さえしていたくらいだったから。それくらい私はすっかり彼に惚れ込んでいた。
「ママ?ママー?」
「あ、うんごめんね」
「もうっ。じゃあ私もう行くね、気をつけて帰ってね」
「ありがとう。いってらっしゃい。ちゃんと勉強しなさいね。夜更しはしないこと。それと」
「バランスよく野菜も食べること、でしょ!わかってるったら。行ってきます、ママ」
どっちが大人だかわからないな、なんて苦笑して友達と一緒に列車へ乗り込む娘を見送った。周りにはそんな人達ばかり。しばらく会えないだろう娘や息子に手を振って送り出す人達。でもその中に彼の姿はなかった。死んだのだと、新聞で見た。もし彼が生きていたら当時の話でもできただろうか。懐かしいねと笑い合うことはできたのだろうか。どんな生活を送り、今何の仕事をしていて、あの人とは連絡をとっていてとか、何年も前の九月一日をやり直せたんだろうか。




九月一日ネタを書きたいがためにとっておいたもの。ただただシリアスですね。ちなみに”彼“はご想像におまかせします。ハリーポッターで亡くなった人達全てに捧げます。


∴ 08/29 ( むぎ )
「ぶっさいくだなァ、お前」
「おいシリウス。何だよそれ」
「さぁ。談話室で見付けた。ぶっさいくだけど、なーんか可愛いんだよなぁ」
「ふーん。お前もそんな子供騙しに興味あったんだな」
「まさか。ただ……似てないか?このマヌケ面」
「似てる?誰に?」
「あ、いや……何でもねぇ」
「はーん。シリウス、まさか――?」
「お、お前には関係ないだろ!」

 *

「――なぁ、リリー」
「どうしたの、そんな真剣な顔して。気持ち悪いわ」
「ありがとう。愛してるよ」
「やだ。ジェームズ、貴方、本当に変よ?何があったの?」
「……恋、かな」
「え?」
「これは、恋かもしれない」
「……」
「ああっ!違う!僕じゃない!」
「へぇー」
「僕が愛してるのは君だけだよ、リリー!」

 *

「みんな騒がしいね、今日も」
「そうね」
「静かな時間が一番落ち着くのにな。ジェームズもシリウスも、もう少し大人しくなればいいのに。ね、リリー?」
「あはは、そうね」
「……ねぇ、何で笑うの?」
「あんたは幸せ者ね、ほんと」
「え?わたし?」
「いいわねぇ、幸せねぇ」
「え、ちょっと、リリー?」
「幸せって、いいわねぇ」





*落書きに色つけてみました。瞳が青にしか見えない(グレーに塗ったのに)







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