novel25 | ナノ

※R15
一応これの続き

 ずっと気付かないふりをしていた。口づける度に背中を走る感覚も、腰に溜まっていく熱も。だってこんなのあまりに酷い。こんなきたない欲に付き合わせたい訳じゃないんだ。そんなの愛じゃない。


 男同士でもできるのだとようやく知った。きっかけは近頃古典に凝りだした北斗だ。そういえばシェイクスピアは同性愛者だったかもしれないそうだね、最近は否定されているようだけど。楽屋で北斗は突然言い出し、世間話にしてはずいぶん突飛な話題に冬馬はうろたえた。隠し事が暴かれたかと思って。だが北斗にとっては単なる雑談の一種に過ぎなかったようで、話はすぐに変わっていった。それから冬馬はなんとなく同性愛者について調べて、そしてなんやかんやの知識も得たのだった。
 知らなくても良かった。知りたくなかった。
 明かりを消した自室のベッドの上でうずくまっている。側にはさっきまで生々しい文章を表示していたスマートフォンが投げ出されていて、頭の中には恋人の顔が浮かんでいる。つい昨日も、このベッドの上で延々唇を重ねていたのだ。好き、大好き、愛してる。キスの合間にありふれた愛の言葉をまるで二人のためだけにあるのだと思い込んでいるみたいに言い交わし続けて、二人はずっと抱きしめ合っていた。
 幼げで甘い時間が、急速に脳内で変換されていく。切なげな表情も火照る身体も喉から勝手に零れていく声も、純粋な愛だと信じていたのに余計な知識が色欲を匂わせる。違う。違う!
 暗闇の中に恋人の姿を幻視する。まだ丸みのある輪郭と、柔らかな指。それが自分に触れて、名前を呼んで、それで。
 熱っぽい視線を想像しただけで、受け入れたことなどない腹のなかが勝手に疼いて収縮した気がした。あつくて仕方ない。喉が乾く。幻を振り払おうとしても消えてくれない。枕にすがりついて彼がよくするようにそれを抱きしめた。こんなことに巻き込みたい訳じゃない。あいつはまだこどもなんだ。こんなの、だって、間違ってる。
 ひとりで過ごす夜は長すぎる。荒い息をなだめながら、早く冷めろと念じている。


 北斗を見送って玄関から部屋に戻ってきたところで、翔太がいつものように飛びついてきた。ベッドの上に向かい合って座る。腿の上に乗せるかたちが一番やりやすいので。けれど今日に限っては失策だったかもしれない。キスするたびに頭の中に昨日見た諸々がちらついて、はねそうになる腰を抑えるのに必死だ。ばかみたいに身体が熱い。息が苦しい。知らないうちに涙が滲んで零れていった。
「……どしたの、今日、なんか変?」
 こいつはいつも目敏い。「普通だっての」と精一杯の虚勢をはる。翔太は大きな目を細めて、じっと顔を見てくる。耐えられなくなって視線を逸らした。
「嘘」
 彼はぽつりと呟く。頬に添えられていた手がするする降りて身体をなぞる、それだけで仰け反りそうなほど気持ちが良かった。羞恥で顔が余計熱くなる。
「ホントはね、ずっと気付いてたよ」
 小さな手が肩をそっと押して、そのまま二人で倒れ込む。見上げた顔は昨日の幻よりずっと切羽詰まった顔をしていて、そして幻よりずっと良かった。
 ぎこちない動きで翔太は冬馬の身体をまさぐる。本当にどこもかしこも気持ち良くって仕方なかった。昂った神経はもう快感しか伝えてくれない。びくびく痙攣じみた動きを止められない。きっと今なら爪の先さえ感じてしまうに違いない。
 熱に浮かされそうな頭を、それでも懸命に振る。嫌だ、違う、だって、こんなの。自然と漏れる声の合間になんとか言葉を吐こうとするがわけの分からない喘ぎになって消える。潤む瞳で翔太を見上げると彼は上体を倒して口づけた。
「愛してる」
 かすれた声で囁かれる。それだけで拒絶の言葉なんてどこかに行ってしまった。あいしてる。たった今また死んでいったのはきっとプライドか何かだろう。死んだものに興味はない。今ここにあるものだけでいい。目の前の少年に組み敷かれたいと願って勝手に期待していた羞恥も年下とする罪悪感も、もうたぶん必要ないのだろう。愛してるってきっとそういうことだ。
 両手を伸ばす。彼の頭を引き寄せて今度はこっちからしてやろうと思ったところで、ベッドサイドでアラームが鳴った。そうだ、翔太の帰宅時間だ。中学生にしては既にずいぶん遅い時間になってしまっている。名残惜しく見上げると翔太は困ったように眉を寄せた。
「……泊まっていい?」
 断れるわけがない。頷くと顔が輝く。ガキだよなぁ。もしかしたら演技だったかもしれない。どうでもいい。
 翔太はスマートフォンを弄って電話をかける。今日は泊まっていくね、長引きそうだから。自分の上に跨がったまま話す彼に、上体を起こして抱きつく。彼の声と電話越しに聞こえる声を、祈るようにして聞いている。
 ひとりの夜は長かったけれど、二人ならどうなのだろう。実際のところはどうだっていい。愛しいひとと過ごす時間はきっと永遠とだって釣り合うだろう。二人なら永遠だって平気で過ごせると思った。
20171027


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