novel14 | ナノ

 冬馬君って、アイドルが天職って感じだよね。
 レッスン終わりに僕が何気なく言うと、冬馬君はびっくりした顔をしたので、僕の方がびっくりしてしまった。結構、自覚あると思ってたんだけど。やがて冬馬君は丸くした目を細めて、「サンキュ」って笑った。それがすごく嬉しそうだったから、良いことしたなって思ったんだ。その時は。彼が根っからのアイドルだってこと、軽く受け止めてた。この頃もとっくに僕は冬馬君のこと好きだったと思うんだけど、それがどういうことかよく分かってなかったんだろう。


 バレンタインにライブをすることになった。バレンタインといえば北斗君の誕生日だし、レッスンにいろんな取材に準備に、サプライズの用意まで加わって、僕らは毎日かなり慌ただしく過ごしていた。ライブの前日は特に遅くなって、僕らが働けるギリギリまでリハを行って、それから北斗君は撮影に、僕と冬馬君は事務所に送られた。正直家に送ってもらった方が楽だけど、車も足りないし仕方ない。迎えにきてもらえないかなって家に連絡を入れたら、冬馬君としんとした事務所で二人きりになった。

「明日のライブ楽しみだね。サプライズも」
「ああ」
「冬馬君、学校でチョコ貰える?」
「まあな……断るのも悪いしな」
「冬馬君甘いの好きだもんね」
「食いたいからじゃねーよ」
「冬馬君って好きな娘いるの?」

 これが本題だった。別にいたらどうこうって訳じゃないけど、情報として。好きな人のことは知っておきたいからね。
 冬馬君はちょっと顔をしかめた。

「いねーよ」
「そうなの? 学校にも? 他の事務所にも?」
「いねーってば。つうか、そういうの悪ィだろ。応援してくれてる奴らに」
「え?……彼女じゃなくて、好きな人だよ?」
「分かってるって。だって嫌だろ、俺らが誰か一人のために歌ってたら」

 きっと僕はよっぽど驚いた顔をしてたんだろう。冬馬君は首を傾げた。当たり前のことを言ったのに分かってくれなかったって、不思議がるみたいに。
 冬馬君って、本当の本当に、天性のアイドルなんだ。
 誰か一人を想ってたってバレやしないのに、ファンために丸ごと青春を費やす気なんだ。それも仕方なくじゃなく、心から。本当に……馬鹿みたいで、最高に尊敬できる、最高のアイドルだ。

「冬馬君ってすごいね」
「あ? 何がだよ」
「んー……全部」

 ついでに、好みのタイプは、って訊いたら最初は嫌がってたけど、しつこく食い下がったら「……メシ残さない奴」って教えてくれた。僕もご飯は残さないから、当てはまってるかな。


 バレンタインライブも無事終わり、冬馬君の家で打ち上げをすることになった。だけど北斗君は誕生日のデートで忙しいみたいで、結局また僕と冬馬君の二人きりだ。

「おじゃましまーっす」
「おう上がれ上がれ」
「今日はカレー?」
「悪いかよ」
「ううん! 大好きだよ」

 冬馬君のことがね。心の中で呟く。ほらほら、国民的弟アイドルが、日本全国裏切って、君に告白してるんだよ。冬馬君はカレーのことだと思って、嬉しそうに笑った。

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20170805
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