心まで掴まれた | ナノ

心まで掴まれた

[これ]の続き
微グロ

 真剣な顔で見つめてくるものだからどきどきした。心臓はもう止まっていたけど。
 鵺雲の胸を包丁で貫いて息の根を止めた栄柴巡は、そのまま鵺雲の身体の上で開胸工事に取り掛かっていた。ぺきん、と冗談みたいに軽い音を立てて肋骨を一本ずつへし折っていく。ぱき、ぺき、ぐちゅ、ぶちん。真剣そのものの表情を噴き出す血が染める。犯しているみたいだ、と良くない歓びが止まった血流の代わりに全身を走る。内臓を滅茶苦茶にされながらの感想にしてはどう考えたっておかしくて、だけど心臓を直接触られているんだから仕方のないことなのかもしれない。ハートに刺さったのは天使の矢じゃなかったけれど、恋と呼んで差し支えないときめきがあった。
 貫かれた穴から流れ出す血は熱くて、冷えていく身体で背中側に広がっていくそれを感じている。巡が何かする度に驚くくらいの量が湧き出して部屋中を染めた。
 ずるりと抜けていく感覚。ついに心臓を掴み出した巡は鵺雲の胸をまな板代わりにそれを血管から切り離す。満足げに微笑んだ彼の表情はしかしすぐにつまらなさそうなものに変わる。何か言ってあげたかったけれど穴の空いた肺では言葉は発せなかった。
 塵芥と同然に心臓は投げ捨てられる。血塗れの手でスマートフォンを操作している。もう一人を呼んだのだとすぐに察した。なんだか面白くないような気もした。
「キスしてもいいかな」
 喋ってみようと思えば簡単なものだった。心臓が巡らせる熱い血は再び身体を温め始めている。
 巡は戸惑うこともなく苦笑を浮かべる。
「ええ……俺今顔やばいでしょ」
「かわいいよ」
 あんまり心にないことを言いつつ、胸元を引っ張って屈ませる。血の味がした。
「うえ、不味っ」
「九条の血だと思って我慢してほしいな」
「血ってそういう意味じゃなくないですか? てか俺、ファーストキスなんだけど」
「ええと……ありがとう?」
「……どういたしまして……?」
 なんだか妙にうきうきしていた。ねえ巡くん、持ってきてくれたゲームをやろうか。いいですけど……? 訝しげな巡に笑い出したくなる。浮かれていると自分で分かってそれもまた楽しかった。なにせ初恋なのだ。
20220903


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