ゆっくりと唇を寄せて軽い口付けを落とす。暗い部屋に薄暗い明かり、カーテンの隙間から除く月明かりだけが彼らをじっと見つめている。ゆっくりと、少しずつ――少しずつ深くなって、ほう、と吐息を吐く頃には頬が熱くて仕方がない。
 闇に溶けるような黒髪が僅かに揺れた。もう少し続きを、そう言いたげな表情が暗い部屋でじっと彼を見つめる。金に輝く眩い瞳が夜の中で煌々と光るのだ。男は光は嫌いだが、彼のその瞳は何よりも好きだった。
 その続きを。徐に服に手を伸ばしてみれば、彼は薄く笑って諭すように「駄目」なんて呟く。

「だぁめ。今日お前無理したからこれだけな?」

 そう言って男の体を抱き寄せて、あやすように背中を軽く叩く。トントンと優しく、そのまま布団に倒れ込んでしまって。「……何だ、期待したのに」と、ふて腐れるような声が彼の腕の中からポロリと溢れた。

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期待したのに


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