「何かしてほしいことはあるか?」と彼は気前よく俺に言った。傍に居てくれるだけで十分支えになっているのに、それ以上を彼は俺に与えてくれるというのだ。それに俺はそっと口を開きかけて、躊躇って口を閉じる。「特にない」なんて呟けば、「そうか」と彼は言って笑った。言える筈もない。本当は――

「主人になって、だなんて」
(ノーチェさん×クレーベルト)


何でもない日曜日。彼は今日もバイトを入れた。何せ植物状態のお兄さんの面倒も見なきゃならないから、稼がないといけないというのだ。そんな私は彼に感動して押し掛けるように手作りの弁当を持ち寄った。勿論栄養バランスは考えた。
「お代はキスでいいですよ」
それに彼は珍しく顔を赤く染めていた。

「お代はキスでいいですよ」
(白崎幸人×黒崎小春)


彼女の父は厳格な人だった。母はおおらかで見た目とは裏腹に時折突拍子もないことをしでかすが、それを抑えるために厳格になったと言っても過言ではない。その父が怒りを露わにすると相当恐ろしいようで、今日もやらかした彼女は肩を竦めた。しかし今日は「今日はリアも道連れよ」と私も巻き添えらしい

「地獄へ道連れ」
(ラグノリア×アレイシア)


ざわざわと耳障りな人の声。目の前には当たり散らした観客席。見窄らしい見目になってしまったシリルを見やって俺は言う。
「そんな姿じゃ買い手は見付からないだろうから、俺が買ってあげるよ」
くつくつと嫌味たらしく口を開く俺に、彼は「参りました」と言って自分の失敗を認めて小さく笑った。

「ヘマをした彼に一言」
(ハインツヴァルト×シリルさん)


ちらり。覗いたそれに思わず「あ」と声を上げる。すると彼女は咄嗟に服を下ろし、じぃっと僕の顔を見る。猫がふて腐れるような納得のいかない顔をして、「見た?」と問う。僕はテーブルに肘を突いて「さあ、どうかなぁ」とにやついてみれば、彼女は口をへの字に曲げたまま武器を取る。「言ってよ」と。

「いや、本当は見てないけどね」
(フォルネウス×ソネイロンちゃん)


私より小さかった手のひらはいつの間にか同じくらいの大きさになっていた。肌は滑りがよくてキメ細かい。睫毛は長くて目は綺麗。輪郭は丸みを帯びていて、煌めく金色の髪が印象的。
――私とは違って性格が良いからだろう。どこか遠くへ言ってしまいそうで、思わず「ずっと傍に居て」と小さく洩らした

「ずっと傍にいて」
(メアリーちゃん×アルル)

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140字SSシリーズ1


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