6 years old





2021年 冬


6歳になった雪はテレビに映る傑を見て目を輝かせていた

「傑くんかっこいい…!!」

画面に映っているのは祓ったれ本舗がレギュラーメンバーのバラエティ番組
有名芸能人を集め誰が一番スマートかを競うという企画の真っ最中のようでちょうど傑がかっこよくエスコートをキメたところだった

「雪待って!次パパの番だから!!」

ほら見て!!と娘にアピールする悟だがかっこつけの悟は雪にはウケなかったらしい、悟のターンを見終えた彼女は「微妙」とはっきり言い放った

「何で!!!!」

娘にフラれた挙句相方に負けて悔しいのか悟が世那に泣きついてくる
ソファに座っている家族三人、世那を真ん中にして座っているのだがまだ子供の雪よりも悟の方が子供なので彼女はため息を吐いた

「あのさ、恥ずかしくないの?」

「えっ、辛辣」

慰めてもらえると思ったのに一刀両断された悟がめそめそし始める
そんな父親をじいっと見ていた雪は「やっぱり傑くんの方がかっこいい」と追い討ちをかけている
後数ヶ月で小学生になる雪はすくすくと成長し益々世那に似てきていた
世那に似ると言うことは悟がそれはもう溺愛するということ
そんな可愛くて仕方ない娘が傑の方がかっこいいと言うなんて悔しい以外の何物でもない

「傑より僕の方がかっこいいのに」

むすっとする悟はスマホで何やら打ち込んでいる
大方傑へ恨みのメッセージでも送ってるんだろうと思った世那はその番組が終わったのを見届けてから雪と一緒に風呂に入ることにした

「雪の髪は綺麗だね」

シャカシャカと髪を洗ってあげる世那は悟譲りのさらさらの白髪を見てそう告げる
大人しく洗ってもらっていた雪は鏡越しに母の桃色の髪を見つめる

「雪、ママの髪好きだよ
綺麗なピンク色で羨ましい」

「でもくせっ毛だよ?」

「ふわふわしてて可愛いよ」

いいなあと羨ましそうに告げる雪はドストレートに人を褒める癖がある
恥ずかしげもなくはっきり言うのは悟に似ており時々世那は照れてしまっていた

「流すから目瞑っててね」

「はーい」

ぎゅっと目を閉じたのを確認してからシャンプーを流し今度はトリートメントを髪に塗り込んでいく
雪の髪は世那を真似て伸ばしているらしく肩より長い
悟は「僕が長い髪が好きって言ったからかな?」と勘違いしていたが本当のことを言うと面倒なので黙っていた

雪を洗い終えて今度は自分が髪を洗っていると湯船に浸かっている雪の視線を感じる
視線の先が自分の胸に向いていることに気づいた世那は呆れた目を彼女に向けた

「何?」

「ママの胸って何でそんなに大きいの?」

「女の人は大人になるにつれて胸が出てくるの」

「でも先生よりもママの方が大きい」

何で?と不思議そうな雪だが世那は顔を引き攣らせる
保育園の先生と比べているということはまさかサイズを確認したのだろうかと

「雪、まさかとは思うけど胸を触ったりしてないよね?」

「見てるだけ」

「それもよくないからやめようね」

次からどんな顔をして会えばいいんだと悩む世那もささっと髪や体を洗ってから湯船に浸かる
冬はお湯に浸かっているこの時間が一番幸せかもしれないと二人でのほほんしていると、先ほどのことを思い出したのか雪がまんまるの目を世那へ向けた

「ねえねえ、ママは傑くんと仲良しなんだよね?」

「そうだよ、小学生から友達だからね」

「どうして傑くんと結婚しなかったの?」

近頃雪が何で何でと聞くことが増えた
何にでも興味を持つのはいいことだし問われることに上手く答えられるかは教師の自分としてもちょっと楽しい
とはいえ流石にこれは想像していなかったので思わず吹き出す

「(そっか、前世の私だったらなあ)」

前世の自分なら傑を好きだったので雪の気持ちに寄り添えるだろうが生憎今の自分は悟一筋で生きてきた
彼以外との結婚など考えたこともなかったのでこの質問は面白いのだ

「あのね、ママはずっとパパのことだけが好きだったの
5歳の時に出会ってからずっとパパと結婚することだけしか考えてなかったから傑と結婚っていう選択肢はなかったかな」

くすくすと笑う世那は先ほど雪にフラれて落ち込んでいた情けない旦那を思い出すも、ああいうところも込みで好きなのだから自分はつくづく見る目がないのだろう

「パパのどこが好き?」

「んー、ママのことが大好きなところかな」

彼に愛されている自覚はある
互いの愛を確認し合ってきた人生だったので自信すらある
世那の答えを聞いた雪は「ふーん」と若干興味なさげだが

「雪、これパパに言っちゃ駄目だよ」

「どうして?」

「だって恥ずかしいもん」

「ママ照れてるの?可愛いね」

可愛いとベタ褒めしてくれる娘の方が可愛いとツッコミを入れたくなるのを我慢し風呂を出て体を拭いてパジャマに着替え髪を乾かす
先にドライヤーを終えた雪が脱衣所を出てリビングへ向かうのを見送ってから世那が自分の髪を乾かしていると悟がやってきた

「お待たせ、ごめんね先に入っちゃって」

「全然、雪がよろこんでたよ」

「え?」

「ママの恋バナを聞いたーって」

それを聞いて固まった世那がまずいと思うも悟が脱衣所の鍵をかけてしまう
雪が入ってこれないようにしてから世那を抱きしめる彼は鏡越しに最愛の妻を見つめた

「ねえどんな話したのか教えてよ」

髪を掬って首筋にちゅっとキスをする悟の水色の瞳が細められ彼女を射抜く
あまりの色気に頬を染め口をぱくぱくさせたプチパニックに陥るものの、自分がドライヤーを持っていることを思い出しスイッチを入れて悟に向けた

「うわ!」

あっつ!と距離をとる悟を確認して世那も臨戦態勢に入る
雪には内容を言わないでと言ったものの恋愛の話をしたことも言っちゃ駄目と約束までしていなかったのは自分の落ち度だ
世那が自分に一途と知っているからこそ自分の話をしたのだと自信満々に聞いてきた悟はこの世那の反応を見て確信する

「やっぱ俺の話?いいじゃん教えろって」

「いやいやいや、女同士の会話なんだから駄目
てゆーかさっきまで傑に対抗心を燃やしてたくせに」

みっともなく傑に張り合っていたのはどこの誰だと皮肉を言うも今の悟はご機嫌なのか頬を緩めにまにましており気に留めていない

「まあね、雪の趣味はよくわかんないけどさー…
でもオマエは俺を選ぶでしょ?だって俺以外にときめいたことないもんね?」

にっこり微笑む悟がドライヤーを持つ世那の腕を掴み上げ彼女に口付ける
ぬるりと舌が割って入ってくる感覚がしていよいよマズイと思うも力で押さえ込まれれば世那に抵抗の術はない

「んっ…ふ…」

「(あー、やっぱ可愛い)」

甘い声が漏れる世那を愛しげに見つめる悟は気分が高まるも雪がまだ起きているのでこれ以上はやめておくかとパッと体を離した

「ま、いいよ、どーせ後でベッドの上で吐かせてやるから」

んじゃ風呂に入ろーっと告げ衣類を脱いで風呂に入っていった悟
彼をぽかんとした顔のまま見送った世那はドライヤーなどを直してからリビングにいる娘に「パパはやめなさい、傑にしておきなさい」と真顔で告げたのであった









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