ヒロアカaqua


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両親と別れやってきたのは雄英より30kmほどの地点にある建物
仮設要塞"トロイア"

「セメントス、パワーローダー、そしてエクトプラズムがいるからこそ超短期施工が可能、雄英には到底及ばんが堅牢だ各自部屋に荷物を運び準備を」

「ハイツアライアンスリスペクトだね」

「親切」

「終の棲家にならねーといいけど」

「やめィ!!!」

各々用意されている自室に向かえば寮と変わらない部屋が迎えてくれた
最低限の着替えなどしか持ってきていないので荷解きも何もない私は自室で物思いに耽っていると、唄ちゃんが訪ねて来た

「あれ、雫ちゃんももう終わり?」

「うん、ほとんど持ってきてないからね」

「そっか…私も」

目前に迫る最終決戦
作戦概要は昨晩説明を受けた
配置やそれぞれどのヴィランと戦うのかも

唄ちゃんは緑谷くん、爆豪くんと共に死柄木と戦う
正直心配でしかないけど、止めても絶対に聞かないこともわかっているのでそれはしない

「ねえ唄ちゃん、思えば私たちってすごい縁だよね」

「え?」

突然のことにきょとんとした唄ちゃんに微笑む

「入試会場で一緒に戦って、同じクラスで、期末試験もペアで、インターンの時もずっと一緒でしょう?」

「言われてみれば確かに…!」

「私本当に唄ちゃんと出会えてよかった」

彼女に出会えて沢山のことを教えてもらった
その感謝を込めてそう告げれば、唄ちゃんは心配そうに眉を下げる

「雫ちゃん…荼毘とのこと大丈夫?」

「大丈夫…って言えば嘘になるけど、焦凍くんがいるから大丈夫だよ
絶対に彼を守る、そのために私はここにいるから」

と、その時ノックがしたので扉を開けるとそこにいたのは飯田くん
どうやら燈矢くんと対峙する私を心配してやってきたようで、この後焦凍くんのところにも行く予定らしい

「私は大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」

「勿論だ、海色くんは俺の大切な友人だからな!」

飯田くんと唄ちゃんと共に焦凍くんの部屋へ向かうと、そこには彼のベッドに寝転がる爆豪くんと、同じくベッドに腰掛ける切島くんの姿
思わぬ先客に目が点になってしまう

「勝己?!」

「え、うそ…爆豪くんが気を遣って…?!」

信じられないものを見たとギョッとした私に心底不快そうな顔を向ける爆豪くん

「あぁ゛!?テメェは大丈夫そうで安心したぜ泡女!ブッ殺すぞゴルァ!!!」

平常運転の彼に呆れつつ焦凍くんへと目を向けると、彼は意外と平気そうにしている

「みんな…気ィ遣わせちまってわりィ、大丈夫だ」

正座していた飯田くんが首を横に振る

「俺も兄がいるからな」

「おまえんとこと比べられちゃ堪んねえよ
俺は燈矢兄の好きなモンも知らねえ」

複雑な事情がある焦凍くんの家庭事情
自分の父が始めたこととは言え、火種は巨大になりすぎた

「絶対うどんだな、煮えたぎったやつ」

焦凍くんが冷やし蕎麦が好きだと知っている爆豪くんのその言葉に思わず笑ってしまった

「ふふ、そうだね」

「ハッ…だったら一緒に食ってやるさ」

そう告げる焦凍くんの表情は覚悟を決めているものでみんなは安心する
家庭事情も鑑みて配置はかなり熟考されたらしい
そこに私たちの希望も入ったとのこと

「それじゃあ午後からの捜索に向けて気持ちを切り替えて行こう!」

飯田くんの言うとおりオール・フォー・ワンの心に隙を作るためにも捜索は続けなければならない
私たちは大きく頷いた

みんなが自室へと戻る中、私は焦凍くんの部屋に残って彼と向き合う

「本当に大丈夫?」

「お前こそ」

心配してくれる焦凍くんににっこりと微笑んでからくるりと1回転して見せた

「耐熱使用の新コスチュームだよ、私も戦う」

焦凍くんを1人にしない
その思いでそう告げれば、彼はフッと頬を緩ませてから私の腕を引く

椅子に座っている焦凍くんと立っている私
必然と焦凍くんを見下ろす形になるんだけれど、彼は私の後頭部に手を回して引き寄せながらキスをした

「…上手だね、キス」

「雫以外としたことねぇから上手いかどうかわかんねぇ」

「そういうことじゃなくて、雰囲気作りが上手だねってこと」

今度は私からキスをする
その最中、私の長い髪が顔に当たったのか、焦凍くんが私の髪をそっと耳にかけた

「早く大人になりてぇな」

「どうして?」

「雫と結婚できる」

唐突な言葉にぽかんとした私はすぐにくすくすと笑ってしまった
その反応が意外だったのか焦凍くんは首を傾げている

「そんな面白いこと言ったか?」

「違うよ、今のは嬉しくて笑ったの」

当たり前のように結婚だとか将来を考えてくれていることが嬉しい
私はこの先何があっても彼の傍を離れることはないんだろう
そう思えるほどには焦凍くんと一緒にいるのが当たり前になってしまっている

「ちょっと立ってみて」

「?」

焦凍くんを立ち上がらせて自分よりも身長の高い彼を見上げる
その整った顔も、両親から授かった2色の瞳や髪も、低い声も、天然なところも、友達思いなところも大好きだ

彼に抱きつけば細く見えて意外とがっしりしている体に受け止められて互いに温もりを確かめる

「私も焦凍くんとの未来が楽しみだよ…だから絶対一緒に止めようね」

ここで食い止めなければ私たちに未来はない
これからもっと一緒に生きていくためにも乗り越えなきゃいけない場面なんだ

「ああ…雫、お前は俺が守るから俺を守ってくれ」

「うん、任せて」

ずっと貴方を守れるようなヒーローになりたかった
そのために努力してきた

だから必ず私が守ってみせるよ




ーーーーーーー
ーーー



4日後



いつも通りの朝
身支度をしてからコスチュームを纏って鏡の前に立つ

銀色の髪に水色の瞳
私は水鞠雫であり、海色雫

水鞠のお父さんが守ったこの命で今度は大勢の人を守る

全部終わったらエンデヴァーと一緒にお父さんの墓参りに行きたい
そしてお父さんの話をもっと聞いてみたい

知らなければ楽だったとしても私はちゃんと自分が何者なのか知っておきたい
そうしないといつか軸がブレてしまう気がするから

髪を結ってから1階に降りると既にみんな集まってきていた

「おはよう」

「いよいよだな」

緑谷くんがいないのは今作戦決行中だから
百ちゃんと上鳴くんは雄英で責務を全うしているから

残ったメンバーは多くを語らずトロイアの前で待機する

これから全員が各々の場所に転送され戦闘となる
プロもいるとはいえ相手はオール・フォー・ワン率いるヴィランたち

命を懸けた戦いになるのに誰も怯んでいる様子がないのはみんなの思いが同じだからだろう

それにA組だけじゃない
全国各地のプロヒーローもその時を待っている

「唄ちゃん」

隣にいる唄ちゃんが緊張しているように見えたので声をかける
いつも通りの笑顔でにっこりと微笑めば、彼女も微笑み返してくれた

「雫ちゃん」

私の手を握った彼女は覚悟を決めた表情だ

「絶対守ろう」

「絶対勝とう」

恐怖も不安も全て力に変えて戦うんだ

「「絶対にまた会おう」」

直後、私たちの目の前に黒霧の個性であるワープが出現する

「行くぞ!!」

爆豪くんの声と共に全員が一斉にそこへと飛び込んだ

心操くんがオール・フォー・ワンに隙を生ませた
青山くんがオール・フォー・ワンを誘き出した
物間くんがオール・フォー・ワンの不意を突いた

みんなが必死に戦っている
この世界の平和を取り戻すために、私たちの未来を取り戻すために

負けない、負けられない

『予想通りだ!大群を率いて来た!各班動け!!』

『奴はワン・フォー・オールさえ奪えば逃げ隠れする必要もなくなる!!
ここで終わらせここから始めるつもりだ!!』

無線から聞こえるオールマイトの声
その後、ワープの先に見えたのは大勢のヴィランと、応戦するヒーローの姿

あの日神野で見た以来のオール・フォー・ワンの姿もある



最終決戦が幕を開けた








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