ヒロアカaqua


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向かい合う私と女ヴィラン
離れていても爆豪くんの爆破音が聞こえてくる辺り向こうにもヴィランがいるんだろう

「(傭兵以外にも雇ってたんだ)」

先を行った焦凍くんたちは大丈夫だろうか
追いついた方がいい気がしてきて少し焦りを覚えた

「初めまして、ボクはメテオロ」

「ご丁寧にどうも」

「キミの名前はいいよ、死者の名は聞かないことにしてるんだ」

直後、目の前に現れたメテオロが私の首を掴もうと手を伸ばすので体を退く
すると今度は杭が出現し、それを掴んだメテオロが躊躇わず私の足ごとそれを地面へ突き刺した

「あ゛っ!!!」

「少々手荒な真似をごめんね、けれどすぐ楽になるよ」

その場から動けない私の首を絞めるメテオロ
けれど私だってそのままやられるわけにはいかない
液状化し杭もすり抜けるけれど具現化した瞬間を狙って攻撃を受けてしまう

「(どうしてこんなに早く動けるの…それにさっきの杭といい、柱といいどこから…)」

私のように何かを具現化させる個性かと思っていたけれどだとしたらあの速さは説明がつかない
まるで通形先輩のワープしたように見えた動きと同じそれに1つの可能性に気が付く

「瞬間移動…!」

「ご名答、ボクの個性を言い当てるまで生きていたのはキミが初めてだよ」

瞬間移動の個性はかなり扱いが難しいと聞いたことがある
どこへでも飛べる便利なように思えるけれど瞬間移動は目的地の座標設定を間違えるととんでもないことになる
それが原因の個性事故は今まで何度かニュースで目撃したことがあるけれど、どれもゾッとする内容だった

「(それを使いこなしているということは)」

かなりの強者だろうと予測し構える
先ほど空けられてしまった足の甲の穴から血が溢れてきた

「ほら、そこにいると危ないよ」

頭上には無数の瓦礫
ハッとして水の膜を形成し防ぐけれど、手薄になったところを移動してきたメテオロに攻撃される

「っ」

「抵抗すればその分苦しむだけだ…理解し難いな」

攻撃を避けた先に飛んできた鉄球
速度を持ったそれに左腕が嫌な音を立てた

「(私がどこに動くのか予想して先回りされてる)」

「キミの個性はとてもいいね、ヒーロー向きの個性だ」

終始無表情のメテオロは攻撃の手を止めない
傷が増えていく私と対照的に涼しげな表情で瞬間移動を続ける

「ボクはね、この個性のおかげで幼い頃から両親に犯罪行為を無理強いされた
瞬間移動ができれば盗みも殺人も何もかもが容易なんだ…おかげでボクの人生は狂ってしまった」

犯罪行為が行えてしまう個性、それの代表が瞬間移動
前に心操くんが人を操る個性に悩んでいたように瞬間移動の個性持ちの人もまた世間から冷たい目を向けられることも多い

「ただ平穏に生きたいだけだった、こんな個性なければよかった」

「どうして助けを求めなかったの!」

「求めたさ…だけどね、ヒーローはヴィランを救けない」

その言葉にハッとさせられた
ヒーローはヴィランから人々を守る仕事だ
ならヴィランが救いを求めたとしたなら?私ならどうする?

「ヒーローが正義ならボクのような奴は悪なのさ、過程なんてどうでもいいんだよ
結果が全て、それがヒーローだろう?キミのように恵まれた個性の人間にわかるわけがない」

恵まれた個性
その言葉に脳裏をよぎったのは神野の一件

「私だってこの個性を使いこなすまで努力した…危険視されるが故に発現してからずっと訓練してきた!
誰だって最初から恵まれてるわけじゃない、それでも自分のことだから努力するのが普通でしょ!」

小さい頃から私の個性は危険視された
空気中の水分を操るというのならば水分を無くしてしまうことも可能だからだ
もしこの地球上で水分がなくなったらどうなるか、そんなこと少し考えれば悪用される危険性なんて誰だってわかる

使いこなせないからという言い訳は通用しない
ただの水の個性じゃない、それを理解した両親は私に訓練を強いた

両親に褒められるのが嬉しくて苦しい特訓も耐えられた
同年代の子が遊んでいる時も訓練を優先できた
この生き方が正しいかなんてどうだっていい、あの時の両親のおかげで私は雄英にいる、ヒーローを目指せている

「僕がなんの努力もしていないと言いたいのか?」

「違う!足りてないって言ってるのよ!!」

と、その時ドドドッと背中に刺さる金属片
痛みで涙が滲むけれど絶対に泣いてやらない
ヒーローが泣いたら人々は安心できないから
オールマイトはいつだって笑っていた、そんなヒーローになるために…私は!!!

「(絶対諦めない!)」

一瞬でメテオロの背後を取り、その腕を掴み上げる
そして自分たちの周りを覆うように作り出したシャボン玉
中には複数の水蒸気爆発用の金属片が入ったシャボン玉も散りばめられている

「やっぱり…触れられてると飛べないんだね」

「(こいつ…っ!!)」

一か八かで攻撃を受け続けて正解だった
メテオロは物体と自分は動かせても他人を移動させることはできない
可能だとしたらおそらく私は何度か死んでいる
それに物体を直接体内へ移動させることもできない

人というモノは個性の範囲対象外だからそれと接している物もまた対象外になる
だから私と距離を取っていたし、この背中の金属片も直接体を貫いてくるんじゃなく近くにワープさせ、その勢いで刺さっている
傷が浅いのはそういうことだろう

「それを見破るためだけにわざと攻撃を受けていたのか…?」

「正解」

直後、周囲に浮いていたシャボン玉が一斉に爆破していく
逃げられないようにメテオロの腕は掴んだまま、そして爆破が必ず当たるように自分たちの周りの大きなシャボン玉は残したまま

一見自爆に見えるかもしれないけれど、液状化した私の背から金属片がカランッと音を立て落下した
自分を犠牲にした戦い方はギルティルージュから咎められている、だから他に方法がない時にしか使わない
勝利条件がわかればあとは得意の組み立てだけ

液状化してもメテオロの腕を掴み続けたままなので逃げることも出来ない彼女は爆破に巻き込まれただろう
全ての爆破が終わりシャボン玉と液状化を解く

足元で倒れているメテオロを見てから爆豪くんの加勢に向かうため踵を返した
その時背後で禍々しい気配を感じ振り返ると、そこにはトリガー・ボムを打ったメテオロが苦しんでいる様子だった

「あ…ぐ…っ!!!!」

「どうしてそこまで…!」

ヴィラン相手でもできれば救いたい
メテオロと自分は同じ危険な個性持ちという点で共感できる部分もある
けれどこれ以上邪魔するのなら私も覚悟を決めないといけない

「ボクのために…キミを認メるわけニはいかナイんだ!!!!!」

言葉もおかしくなり始めているメテオロ
個性が暴走し無数の瓦礫や岩、木々などが私へ向かって飛んでくる

それを迎え撃つため息を吸う

「(最大出力を瞬時に引き出す点での放出…)」

インターンでの私の課題
器用に個性を使うだけじゃない、私に足りない威力の底上げ

「(数は…30と少し)」

襲いくる物体たちを全て把握しグッと握った拳を大きく振りかぶる
すると私の周りの水分が一斉に凝縮し、水の槍の雨が降り注ぐ
メテオロも負けじとさらに多くの物体を瞬間移動させた

どれぐらいの間防ぎ続けただろうか、残り少ない体内の水分量に冷や汗が流れる

「っ、物が防がレるならボクが直接…!」

「待って!!!!」

メテオロが自身を瞬間移動させる
それを見てハッとし、叫んだけれど遅かった
次の瞬間、私の前に現れたメテオロの体は右半分だけ

「…は…?」

個性には必ず限界点がある、私の水分も体内の水分が尽きれば水分を操ることはできない
メテオロもそうだったんだろう、そもそも空間移動はかなりの緻密な演算を必要とする
通形先輩のように押し出されるわけじゃないのだから自分の体をどの座標に移動させるのか明確にしないといけない

「トリガー・ボムは正常な思考を奪う…それを使った時点でこうなることは確定していたんだよ」

「な…ンデ…!?」

「フィラデルフィア実験って知ってる?
磁場による瞬間移動により消滅したり炎に包まれたり、凍り付いたり…体が半分なくなった者もいた…昔そういう話があったんだって、本当かどうかはわからないけれどね」

まさに今のメテオロもその最たる例だろう

「個性は万能じゃない、だから私たちはそれを正しく使うために学ぶの…自分のためにも他人のためにもね」

「そんな…ボクは…!」

個性事故、そんなことよくある話だ
けれど止められたかもしれないのに何もできなかった自分に悔しさが残る

「救えなくてごめんなさい」

「…キミは……ガッ!!!!」

メテオロが何か言いかけたが、再び暴走し始めた瞬間移動の個性により出現した鉄球が彼女へ直撃する

「メテオロ!」

「だ、メダ…止まらナイ!!!」

先ほどの金属片も出現し、私の体に深々と刺さったそれに激痛が走った
こみ上げる血の味に吐血してしまう
きっと内臓にダメージが入ったに違いない、私もメテオロもこのままだと死んでしまう

「(メテオロも制御できてない以上彼女を気絶させるしか…!)」

この場の水分を捕捉し全て急速に凍らせていく
イメージは焦凍くんの氷結

「(もっと急速に…もっと低く!!!)」

とっくに体内の水分量は許容範囲を超えている
全身は痺れているし下手をすればこのまま私も凍傷で死ぬかもしれない
それでもメテオロを救いたいと思うのはオールマイトならそうすると信じているからに他ならない


-私は自分の限界をとっくに超えたような気になってます、人以上に何でもできる-


冬期インターンでの自分の言葉を思い出して苦笑してしまう
何が限界だ、限界は超えればさらに新たな限界がやってくる

「(限界を決めつけていたのは私自身だ)」

彼女の半身は依然宙に浮いたままなのでそれも凍らせ個性の発動を止めた
辺り一帯が凍て付きはらはらと雪が舞い落ちる中、私は倒れ込む

見極めのために受けた傷、それに先ほどの防戦で点での最大出力の放出を何度も行った
指の1本すら動かすことができないのでまた1つ限界を超えたらしい

「(焦凍くん…)」

彼が無茶してないか心配だ
それに先ほどから爆豪くんの方からの音も聞こえない

「(行か…なきゃ…)」

氷が自分の血で赤く染まっていく光景を最後に、意識はそこで途切れた








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