ヒロアカaqua


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A組の王子様騒動があった日の晩

夕飯後にクラスのみんなにチョコレートを配った私たちは達成感で疲労困憊だった
お風呂に入って自室へ戻って行く中、ふと思い出したのは部屋の冷蔵庫にしまったままのチョコレート

唄ちゃんが一生懸命爆豪くんへ手作りの本命チョコを準備している姿を見て感化され作ったんだけれど、今日の昼間に見たダンボール箱てんこもりのチョコレートを見た手前とても渡す気にはなれない

「食べちゃおうかな」

中学時代もあげたことはないし別に今回もあげなくても問題ないだろう
そう思って女子エレベーターに乗ろうとした時、焦凍くんが私の腕を掴んだ
閉まる扉、もれなく女子棟に来てしまった焦凍くん

「びっ…くりした…」

2階についたエレベーターが開く
流石にこのままじゃいけないので一旦降りて焦凍くんと向き合った

「あの…どうかした?」

「八百万に友達にチョコを贈る日だって聞いた」

「あ、言ってたね」

緑谷くんと飯田くんにチョコレートを贈っていた姿を思い出して頬が緩んだ
あの後同じものを買ってきた2人は嬉しそうに焦凍くんへチョコレートを渡していた
私ももらってしまったので昼間に作ったチョコレートを多めに2人に渡したのは他のメンバーには秘密だ

「それで…その…」

何か言いたげな焦凍くんに首を傾げる
もしかして私からの友チョコだろうか?それはみんなに作ったものを渡したから許してほしい

そんなことを考えていると、焦凍くんが眉を下げ覗き込むようにこちらを見た

「あと、好きな奴に贈る日だってのも聞いた」

それを聞いて納得がいき笑ってしまう
彼はきっと本命チョコのことを言ってるんだろう

「あるにはあるけど…焦凍くんいっぱいチョコもらってたでしょ?
だから自分で食べようかと思ってて」

「…は?」

焦凍くんの低い声が聞こえたので「え」と言葉を返す
すると拗ねたような彼が私のことを恨めしそうな目つきで見てきた

「…いる」

「あ、うん…じゃあ一旦部屋にどうぞ…?」

やけに子供っぽい焦凍くんに驚きつつも部屋の扉を開けば大人しく着いてきてくれた
冷蔵庫から取り出したラッピング済みのチョコを手渡せばキラキラした目でそれを見つめている

「ラッピングしてあるけど、さっきみんなに作ったのと一緒だし…本当に無理しなくて良いからね?」

あんな大量のチョコレートを賞味期限内に食べるのは難しそうなのでそう告げると、焦凍くんはまた不機嫌そうな顔をした

「お前のをもらえねぇなら、他の奴のを送り返す」

「…意外、焦凍くんってそういうの気にしないと思ってた」

淡白というか、愛情表現は豊かだけどイベント的なものは興味なしだと思ってたのでこの反応は意外すぎる

「別に、普通だろ」

「そっか」

チョコレートは渡したわけだし帰るのかなと思いきやいきなりラッピングを開け始めて食べ始めた
さっき晩ご飯の後にチョコレートは食べたというのにまだ食べるのかと驚いていると、焦凍くんは「うめえ」と言った

「ありがとう」

「さっきのよりこっちの方がいい」

「え?だけど一緒…」

「雫が俺のために用意したものが嬉しい」

フッと笑う焦凍くんの姿にポカンとしてしまう
私が思っている以上に彼は年相応なのかもしれない

「…焦凍くん、私のこと好き?」

そう尋ねれば彼は驚いたような顔をしてから優しく笑う

「ああ」

いつも私はもらうばかりで、自分が安心するばかりで…
焦凍くんは不安だったのかもしれない

「私もだよ、焦凍くんが好き」

「お…おう…」

照れたように目を伏せる姿に胸がキュッとなった
そんな彼の反応が嬉しくてぐっと身を乗り出してキスをすれば、すぐに焦凍くんは受け入れてくれる
チョコレートの味がするそれに癖になりそうになるけれど息苦しくなったので離れれば焦凍くんが物欲しげに私を見るので体に緊張が走った

「雫」

「んっ」

床に押し倒され再び食らいつくような口づけをされているといつもより焦凍くんの体温が高いことに気が付く
熱かなと思って心配になっていると、私の考えていることに気がついた彼が「風邪じゃねェ」と言う

「でも体熱いよ…?」

「好きな奴とこんなことしてりゃ普通だろ」

その言葉にハッとした
もしかして焦凍くんは私に興奮しているという状態なんだろうか
漫画ではそういう描写もあったのでこの先どういったことがあるのかはわかっている
けれどまさか高校1年生の自分達がそうなるとは到底思ってなかったので上手く言葉にできず口をぱくぱくとすることしかできない
そんな私を見て優しい表情をした焦凍くんは安心させるように言葉を紡いだ

「今はしねぇ」

ぐいっと起き上がらせて抱きしめられる
トクン…トクン…と聞こえる焦凍くんの早い鼓動を聞きながらそっと指を絡める

「…焦凍くんがそういうこと知ってるのも意外」

「学校で習うだろ、それに俺も男だ」

けろっとしたトーンで言われてしまってはその通りなので言葉に詰まる
最近可愛い面ばかり見ていたから完全に油断してたけれど焦凍くんは男の子だ
訓練中にたまに見せる余裕のない顔は結構好きだったりするのでもっと見たいけれど、そんなことを言ったら怒られそうなので心に留めておく

「(でも…そっか…焦凍くんはちゃんと考えてくれてるんだ)」

当たり前のように将来のことを考えてくれているから早い段階で一山超えるんじゃないかと思ってたけれど存外自分は大切にされているらしい
きっとこの先ずっと焦凍くんは私を大切にしてくれるんだろう
そのことに嬉しくもありむず痒くもあるのはきっと私も焦凍くんが大切だからだ

「焦凍くん、大好きだよ」

その言葉を聞いた焦凍くんはとても嬉しそうに笑った









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