愚者へ贈るセレナーデ

  最後の戦い




いい雰囲気だった私とグレンの間に割って入ってきた深夜が私たちの肩を組んだ


「だから発言が暑苦しいって」

「お前らも同類だ」

「えー」

「くそー」


思えば最初からこんな感じの関係性だったな

グレンに絡んでいく深夜、それに巻き込まれる私

たった八ヶ月でこんなに仲良くなれたのが嘘のように思える

こんな仲間に出会えたなんて私の人生も捨てたもんじゃない


「さ、どうしようか?」

「前に出よう、だがもう戦わない、敵の集団に入ったらすぐに降伏を」


直後、私たち目掛け空から降り注ぐ無数の矢

すべて鬼呪だと見てわかる

流石に数が多すぎる


「おいおいあんなの避けるの無理だぞグレン!俺らお役御免でもう襲われないんじゃなかったのかよ!?」

「仮説だ」

「仮説って!」


そうこう言っている内にも矢はこちらへ向かってくる


「さあ、避けずに突っ込むぞ!もう一度言う…今日俺たちは絶対に生き残る!もしくは…」

「「「「「「死ぬときは全員一緒!」」」」」」


こんな時にそんなことを叫ぶ私たちは本当に馬鹿だ

きっと死ぬ、それでも後悔はない

笑い合った私たちは駆け出した

落ちてくる矢の壁よりも速く敵の群れへと突っ込む

おそらく降伏は受け入れてもらえない、その決定権をもっている者に伝えなければ攻撃の手は止まらない

隣にいたグレンが私に目で合図してきたので隊員を避けるように跳躍し、この兵たちの統率者の下へ向かう

いつだって私とグレンは共に先陣を切ってきた、今回もそうだ

私たちの眼下に見えたのは暮人の姿


「…暮人」


私たちの姿を見た暮人が刀に触れる

するとけたたましい稲妻のような音が鳴り響いた


「俺が行く」


前に出たグレン

きっと暮人相手では私が調子を崩すと思ったんだろう


"ねえ夜空、貴方の好きな人と婚約者だよ"


劫火桜が語りかけて来た

刀を抜いていないのに耳元で囁く


"二人の強い雄が貴方を取り合っている…ねえ、ゾクゾクするでしょう?"

「黙って、グレンは降伏を選択した」

"降伏?でも柊暮人は違うみたいよ"


暮人は刀を抜いて構える


「一瀬グレン!」


一瞬で飛び出して来た暮人とグレンが刀を交えた

刀を抜いていなかったらグレンの体が消し飛んでいたかもしれない


"ほら、始まった♪"

「っ、グレン!」

「下がってろ!」


刀を抜こうとした私にそう叫んだグレン

二人の凄まじい攻防をただ見守ることしかできない私たち


「暮人!俺は降伏しに」

「うるさい黙れぇええええ!!!」


グレンの胸に刺さった刀

その勢いのまま暮人はグレンを遠くへ押し進める


「グレン!!!!」


このままじゃ彼が死んでしまう

刀を抜いた私に劫火桜がニヤリと笑った


"夜空、二人とも殺しましょう、どうせならどっちも自分のものにしちゃえばいいわ"

「うるさい」

"それともどちらかにする?力を貸すわよ"

「うるさい!!!」


可愛らしい声で唆す劫火桜

彼女の誘惑を振り払いグレンの下へ向かう


「だからここで死ね!グレン!!」

「お前が死ね!!」


本気の立ち合い

暮人の背後から深夜が彼を狙うのが見えた

その弾丸は暮人の左腕を吹き飛ばす

直後、グレンが彼の右腕を斬り落とした

そして私は刀の切っ先を暮人の喉にあてがう


「暮人、グレンの話を聞いて」


じゃなきゃ殺す

そう意思を込めて睨みつければ、暮人を人質にとるように背後に回ったグレンが目で合図を送ってくる

これは演技だ、と


「夜空、こいつの腕を離せ」

「了解」


落ちていた暮人の腕を手に取りその場を離れれば、グレンが叫ぶ


「深夜、みんな!撤退だ!」

「俺にかまわずこいつらを攻撃しろ!」


暮人も負けじと叫ぶが柊を攻撃できる者はいない

それも直系の長男となれば尚更だ

その場を立ち去る前に腕をわかりやすい場所に放った

鬼の力があればくっつくだろうけれど時間が経つと怪しい

だからせめて無事にくっつきますようにと言いう思いでそうする

倒れゆく暮人と一瞬目が合う

生きていてくれてよかった、その思いを込めてほんの一瞬だけ微笑んでから駆け抜けた


「どうなった?」

「逃げるんだ」


振り向けば敵は追って来ていない


「敵が追って来ません!五士の幻術が効いてます」

「でも一時しのぎだぞ!俺が離れれば幻覚は晴れる」

「本隊に追われれば池袋に辿りつくのは」


花依さんの口を塞いで雪見さんがしーっと彼女にジェスチャーする

彼女はもう気がついたのだ、グレンがもう池袋へ向かっていないことに

グレンが突き進む先は新宿公園の地下、そこに真昼がいる


「突き抜けるぞ!」





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